基礎練習と技術

ジャズピアノの指の独立性:名手が語るハノンを超えた練習法

ジャズピアノで指がもつれるとき、原因をすぐに「指の筋力不足」と考えたくなる。けれど、実際には筋力より先に見直すべきものがある。どの指をどの音に置くか、どこで手の位置を変えるか、音を押したあとにどう離すか。つまり、フレーズに対する運指の設計だ。…

ジャズピアノの指の独立性:名手が語るハノンを超えた練習法

左手でテンションを含むコードを押さえながら、右手で速いビバップ・フレーズを弾く。そんな場面では、4指と5指が急に言うことをきかなくなることがある。指が弱いからとは限らない。無理な指使いで手の形を固定し、次の動きの余地を自分で奪っているケースは多い。

クラシックの楽譜では、出版社や校訂者によって細かな運指が示されることがある。一方、ジャズのリードシートやトランスクリプションには、すべての音に指番号が付いているわけではない。アドリブでは、そもそも毎回同じ運指になるとも限らない。テンポ、音域、前後のフレーズ、コード進行によって、合理的な指使いは変わる。

「1=親指、2=人差し指、3=中指、4=薬指、5=小指」という対応を知っているだけでは、実戦の運指には足りない。必要なのは、音符を見た瞬間に番号を機械的に割り当てることではなく、フレーズの流れから逆算して指を配置することだ。

運指は、最初に決めて終わる規則ではない。フレーズの構造と手の動きを読み、弾きやすい形に設計し直す作業である。

ジャズ現場で求められる「運指」の自己研究:楽譜に頼らない指使いの設計

指番号ではなく、フレーズの行き先を見る

運指を考えるとき、多くの人は「この音を何指で弾くか」から始める。しかし、ジャズの速いフレーズでは、単音の正解を探すよりも、その音のあとに手がどこへ向かうかを見るほうが大切だ。

たとえば、上行する音型の途中に5指を置くと、その直後にさらに高い音へ進むとき、手全体を持ち上げる必要が出てくる。そこで、同じ音を2指や3指で取れるなら、次の音への余白を残せる。反対に、下行フレーズでは、始点に2指や3指を置いたほうが、親指をくぐらせる動作や手首の横移動を減らせることがある。

この判断は、音階の種類だけでは決まらない。メロディーの頂点がどこにあるか、コードトーンがどこに置かれているか、フレーズが拍のどこから始まるかも関係する。表拍から始まる単純な音階と、弱起で始まってシンコペーションを含む音型では、同じ音列でも自然な指使いは変わる。

まずは、楽譜を開いたらすぐに全音へ指番号を書き込まないことだ。次の順番で考えると、運指の無理が見つかりやすい。

1. フレーズの最高音と最低音を確認する。どこまで手を移動させる必要があるかを先に把握する。

2. コードトーンや着地点になる音を見つける。強拍に置かれる音や、耳で目立たせたい音は、安定して扱える指に割り当てる。

3. 速く通過する音を選ぶ。経過音やアプローチノートは、必ずしも強い指で取る必要はない。

4. 現在の音だけでなく、その先の二、三音まで含めて指の並びを試す。

5. 遅いテンポで弾き、指番号ではなく手首と前腕の移動が自然かを確認する。

6. 音がつながらない、アクセントが意図せず移る、手首が固まるという問題があれば、番号を振り直す。

最後の項目が重要だ。運指のよし悪しは、紙の上で見たときの整然さではなく、音にしたときの自由度で判断する。指番号が教則本どおりでも、手首が動かず、次のコードで手が遅れるなら、その運指は自分のフレーズには合っていない。

2音先まで読む習慣

現在の音と次の音だけを見ていると、短いフレーズは弾けても、長いラインになるほど手の動きが破綻しやすい。そこで有効なのが、少なくとも2音先まで読む習慣だ。

たとえば、右手で上行するビバップ・スケールを弾くとする。最初の数音だけなら、1指から順番に並べても問題はない。しかし、その先にスケールの頂点や跳躍がある場合、途中で親指を入れる位置を誤ると、後半の4指と5指に負荷が集中する。

最初の音を2指で取れば、次に1指を使い、その後を2、3、4指へつなげられる場合がある。もちろん、2指始まりが常に正解ではない。重要なのは、起点を親指や5指に固定しないことだ。フレーズの入り口に2指、3指を置くと、手の移動に余裕が生まれることが多い。

ただし、指の強さだけで運指を決めるのも危険だ。ジャズでは、ラインのすべての音を同じ強さでそろえる必要はない。アクセントを置く音、軽く通過させる音、コードの響きを支える音がある。指の独立性とは、五本の指を完全に別々の機械のように動かすことではなく、必要な音だけを選んでコントロールできる状態を指す。

音型を分解して、手の動きを記録する

運指の研究は、楽譜に番号を書き込むだけでは終わらない。弾いたあとに、どこで手が固まったかを記録すると、再現性が上がる。

記録する項目は多くなくていい。

  • どの音でテンポが落ちたか
  • どの指で音量が急に大きくなったか
  • どこで手首が内側に折れたか
  • 次のフレーズへ移るとき、手を持ち上げたか、横へ滑らせたか
  • その運指を遅いテンポでは弾けても、速くすると崩れるか

録音を使うなら、ミスタッチの数だけを数えないことだ。音の粒が不ぞろいになった場所、アクセントが意図せず移動した場所、フレーズの途中で呼吸が止まったように聞こえる場所を聴く。指が動いていても、音楽の流れが途切れているなら、運指か手の移動に問題がある。

ハノンをジャズ仕様に進化させる:リズムとアーティキュレーションの変奏術

ハノンは、指を順番に動かすための教材として便利だ。しかし、書かれた音型を同じ音量、同じリズム、同じアーティキュレーションで繰り返すだけでは、ジャズの演奏に必要な反応力は身につきにくい。

ジャズで求められるのは、指が均等に動くことだけではない。均等な音型のなかに、意図したアクセントと軽重を作れること。拍の表と裏を感じながら、同じ音列を別のニュアンスで処理できること。ハノンを使うなら、音型を固定したまま、表現の条件を変えていくほうが実戦的だ。

同じ音型を、複数の課題に変える

ハノンの短いパターンを使うときは、まず音を外さずに弾く。その次に、次のような変奏を加える。

変奏の方向取り組む内容確認したいこと
レガート音と音の間を途切れさせずに弾く指だけでなく手首と前腕が連動しているか
スタッカート音を短く切り、余分な力を残さない押し付けずに鍵盤から離れられるか
アクセント移動一定の音型のなかでアクセント位置を変える強調する音だけを選べているか
付点リズム長短の組み合わせに置き換える弱い指が遅れたり、音が膨らんだりしないか
3連系のリズム直線的な音列を三つのまとまりで感じる拍の内側が硬くならず、流れを保てるか
裏拍の強調拍の間に重心を置く手で叩かず、耳でリズムを感じられるか

アクセントは、指を高く持ち上げて強く落とすことではない。鍵盤に入る速度、手の重さの受け渡し、音を出した直後の解放を組み合わせて作る。アクセントをつけた音だけが大きくなりすぎるなら、指の力ではなく、腕全体の重さが一気に落ちていないかを確認したい。

ハノンをジャズに近づけるとき、スウィングのリズムを単純に「長短」へ置き換えるだけでは不十分なこともある。まずはメトロノームを大きく鳴らし、クリックに合わせて機械的に叩くのではなく、クリックの間に音を置く感覚を育てる。メトロノームを2拍目と4拍目に感じる設定にすれば、表拍に寄りかからず、フレーズの重心を自分で保つ練習になる。

すべての調を一度に制覇しようとしない

ハノンの音型をすべての調で練習することには意味がある。ただ、調を増やすことが目的になると、音の質と運指の確認が粗くなる。

まずは、ひとつの調で音型と手の感覚を把握する。次に、黒鍵が増える調へ移り、親指をどこに置くか、手のひらがどの方向へ傾くかを確認する。調を変えると、同じ指番号でも鍵盤上の距離と手の形は変わる。白鍵中心の調でうまくいった運指を、そのまま別の調へ移せるとは限らない。

練習する調を選ぶときは、いつも使うコード進行やレパートリーと結びつけるとよい。たとえば、ブルースやスタンダードで頻繁に登場する調を優先し、そのあとで苦手な調へ広げていく。全調を均等に回すよりも、実際に弾くフレーズと結びつけたほうが、運指の判断がアドリブへ移りやすい。

ハノンの音型にコードを重ねる

ハノンを単独の指運動で終わらせないために、左手で簡単なコードを置く方法もある。左手のコードは複雑にしなくていい。まずは、右手の音型がコードのどの音に着地するかを聴く。

右手の同じパターンを、コードトーンから始める場合と、9thや11thなどのテンションから始める場合で弾き比べる。音型が同じでも、着地点が変わるとフレーズの性格は変わる。ここで重要なのは、左手に気を取られて右手の指を押し込まないことだ。

コードを重ねた途端に右手が硬くなるなら、両手を同時に練習する段階が早い。右手だけでリズムとアーティキュレーションを保てるようにしてから、左手を加える。ジャズピアノの基礎練習メニューは、課題を増やすことではなく、ひとつの音型を複数の音楽的条件で扱うことによって深くなる。

ハノンをジャズにするのは、音型を速くすることではない。同じ音型に、拍の重心、音の長さ、アクセントの位置を与え直すことである。

4指・5指の独立を阻む「固定」を解く:脱力とコントロールのメカニズム

4指と5指は、最初から完全には分離しない

4指と5指を同じように自由に動かせないのは、練習不足だけが理由ではない。手の構造上、薬指と小指は中指や手のひらに比べて連動しやすい。腱や筋肉のつながりがあるため、片方を動かすともう片方にも動きが伝わる。

だから、4指と5指を無理に引き離そうとする練習は、かえって手を固めることがある。独立性を高めるとは、指同士を完全に孤立させることではない。必要な指を動かしたときに、他の指が過剰に持ち上がったり、鍵盤を押さえ込んだりしない状態を作ることだ。

ここでいう「固定」には、いくつかの形がある。

  • 弾いていない指を鍵盤へ強く押し付ける
  • 指を高く持ち上げたまま、次の打鍵に備える
  • 手首を動かさず、指先だけで音域の移動を処理する
  • 前腕まで緊張させて、指先の不安定さを補おうとする
  • 速く弾く前から、手の形を必要以上に固める

これらは、弾いている本人には「支えている」感覚として現れる。しかし、支えが強すぎると、次の動作へ移るための解放が遅れる。指の独立性を妨げているのは、動かない指の弱さより、動かなくてもよい部分まで動員していることかもしれない。

「弾いていない指」を監視する

脱力の練習では、弾いている指に意識が集中しやすい。けれど、確認したいのは弾いていない指の状態だ。

右手の2指で短い音を弾き、そのあいだ4指と5指を自然な位置に置く。弾いていない指を鍵盤から大きく離す必要はない。反対に、鍵盤へ沈み込ませる必要もない。手の形を保つために最低限の張力だけを使い、いつでも動ける状態を探す。

次に、2指から3指、3指から4指へ、ゆっくり音を渡していく。ここでは音量や速度を競わない。前の指が離れる前に次の指が押し込まれていないか、手首が一緒に固まっていないかを聴く。音が濁る場合、打鍵の問題に見えても、原因は前の音を離せていないことがある。

リリース、つまり鍵盤から指を離す動作は、打鍵と同じくらい重要だ。音を出した指が次の動きを邪魔しないように、必要なタイミングで解放する。離しすぎれば音が切れ、遅すぎれば音が濁る。ペダルを使っている場合は、指のリリースの問題が隠れやすいので、まずペダルなしで確認するとよい。

指を高く上げるほど、独立するわけではない

指を高く上げる練習には、動きを視覚的に確認しやすいという利点がある。しかし、高く上げること自体が独立性を生むわけではない。指の移動距離が大きくなれば、打鍵までの時間も増え、手の上下動も大きくなる。速いフレーズでは、その余分な動きが次の音への遅れとして現れる。

鍵盤の近くで、小さな動きによって音を出す。これが基本になる。ただし、指を鍵盤に貼り付けるという意味ではない。指先が次の音へ移れるだけの柔らかさを保ち、必要なときだけ鍵盤へ入る。

タッチを均一化したいときも、すべての指を同じ筋力で押すことを目指さない。薬指や小指を人差し指と同じ音量で鳴らそうとして力を足すと、手全体が硬くなる。まずは小さい音量で、音の立ち上がりと長さをそろえる。そのうえで、アクセントやフレーズの方向に応じて音量差を作る。

速いフレーズで指がもつれないための運指戦略:2指・3指の配置と活用

強い指を、目立つ音だけに使わない

2指と3指は、細かな動きを作りやすく、音階やアルペジオのなかで扱いやすい指だ。だからといって、すべての起点を2指や3指にすればよいわけではない。フレーズの方向、黒鍵の位置、次の跳躍によっては、1指や4指を起点にしたほうが自然な場合もある。

大切なのは、5指や4指を「弱いから使わない」と決めつけないことだ。弱い指をまったく使わないと、音域やボイシングの選択肢が狭くなる。4指と5指は、速いラインの主役として連続使用するより、手の外側へ広がる音や、フレーズの頂点、短い装飾音に割り当てると扱いやすいことがある。

たとえば、右手でコードトーンを中心にした上行アルペジオを弾く場合、着地点となる音を2指や3指に置き、途中の経過音を1指や4指へ回す設計が考えられる。逆に、最高音を5指で取ることで、フレーズの頂点が自然に立ち上がることもある。運指における「強い指」は、単に速く動く指ではない。音楽的に重要な音を安定して扱える指でもある。

親指を黒鍵から排除する、という単純化

親指を黒鍵に置かないという教則上の原則は、音階練習では役立つ。ただし、ジャズの運指にそのまま絶対的な規則として持ち込むと、かえって不自然になる。

黒鍵を含むフレーズでは、親指を黒鍵に置いたほうが手の移動が少なくなることもある。ボイシングやクロマチックなラインでは、鍵盤の形に合わせて親指を使う場面が出てくる。問題は、親指が黒鍵に触れることではなく、親指を置いたことで手首や前腕まで固まることだ。

確認したいのは、次の音へ移る余地があるかどうかである。

  • 黒鍵を親指で取ったあと、手が白鍵へ戻れるか
  • 親指を使うことで、4指と5指に無理な伸びが出ていないか
  • フレーズのアクセントが、意図せず親指の音へ移っていないか
  • 手首をひねらずに、次の音型へ接続できるか

「親指は黒鍵に置かない」という標語を守ることより、音の流れと手の自由を守ることを優先する。ジャズのフィンガリング改善では、原則を知ったうえで例外を判断できることが重要だ。

コードトーンをどの指で支えるか

アドリブのラインでは、すべての音を同じ重要度で扱わない。コードの3度や7度、フレーズの着地点になる音は、耳に残りやすい。そこを不安定な指で取ると、音の芯がぼやける。

反対に、経過音やクロマチック・アプローチは、短く通過する役割を担う。そこに強い指を使わなければならないとは限らない。コードトーンを2指や3指に置き、間の音を1指や4指へ回すことで、ラインの骨格を保ったまま運指の負担を分散できる。

これは、単純な「弱い指を鍛える」発想とは違う。指の能力差をなくすのではなく、役割を割り振る。人差し指や中指にすべてを任せるのでも、小指を無理に鍛え続けるのでもない。フレーズのなかで、それぞれの指が無理なく働ける場所を探す。

速さは、テンポを上げる前に作られる

速いフレーズを練習するとき、最初から目標テンポで繰り返すのは効率が悪い。指がもつれた状態のまま速さだけを上げると、誤った運指と余計な力みが定着する。

まず、音の並びと指の移動を確認できるテンポで弾く。次に、同じフレーズを短い単位へ分ける。四音から六音ほどのまとまりを、始点を変えながら弾くと、どこに手の移動が必要か見えやすくなる。

練習の流れは、次のように組める。

1. 右手だけで、音価とアーティキュレーションを決める。

2. フレーズを小さな単位へ分け、各単位の始点に置く指を変えて試す。

3. つまずく直前の音ではなく、その少し前から弾き直す。

4. リズムを変え、長短や三連系の形でも弾いてみる。

5. 左手のコードを加える。ただし、右手の音がつぶれるなら一度戻す。

6. 最後に、運指を固定せず、同じアイデアを別の音域や調へ移す。

始点を変える練習は、実際のアドリブにも効く。同じ音型をいつも同じ指で始めると、少し音域が変わっただけで手が止まる。入り口を複数持っていれば、前のフレーズから次のラインへつなぐ選択肢が増える。

ジャズピアノの基礎練習メニューを組み立てる

練習時間が限られているなら、指だけを動かす時間と、音楽の文脈で指を使う時間を分けるとよい。ハノン、スケール、アルペジオは必要だが、それだけでは現場で使える運指にならない。

短時間でも内容を変える

ひとつの例として、次のような流れがある。

  • 最初の数分:鍵盤の近くで、弱い音量の5本指パターンを弾く。音量ではなく、指を離すタイミングを確認する。
  • 次の時間:スケールやハノンの音型を、レガート、スタッカート、アクセント移動で弾き分ける。
  • 続く時間:スタンダードの短いフレーズを取り出し、運指を二通り以上試す。
  • その後:左手のコードを加え、右手のラインがどの音へ着地するかを聴く。
  • 最後:決めた運指で通して録音し、音の粒、アクセント、手の緊張を確認する。

毎回すべてを長く行う必要はない。大切なのは、基礎練習を「指を疲れさせる作業」にしないことだ。ハノンを弾いたあとに指が重くなり、コードやアドリブで音が粗くなるなら、基礎練習の量や方法を見直すサインになる。

練習道具は、指の代わりにならない

指の筋力トレーニング用として、鍵盤を押し込む器具や、指を広げる器具が紹介されることがある。しかし、ピアノで必要な動きは、指を単独で強くすることだけではない。鍵盤へ入る速度、音を止めるタイミング、手首との連携、前腕の移動が組み合わさっている。

器具で強く押せるようになっても、その力を音楽的に解放できなければ、演奏には直結しない。特に、指を無理に広げる練習は、手の大きさや関節の可動域によって負担が変わる。痛みや違和感が出る方法を、独立性のために続ける必要はない。

ピアノでの練習では、実際に出た音を聴ける。弱い音量で弾き、隣の音が鳴っていないか、音の始まりと終わりがそろっているかを確認できる。指の能力を測るなら、押す強さではなく、必要な音だけを出せる精度を見るべきだ。

避けるべき練習の誤解:痛みや過度な負荷がもたらす逆効果

痛みは、努力の証ではない

練習後の軽い疲労と、関節や腱に出る痛みは別のものだ。指、手首、前腕に痛みやしびれが出た場合、それを上達の証として我慢してはいけない。痛みを感じながら反復を続ければ、フォームの問題を見逃しやすくなる。

痛みが出たときは、まず演奏を止める。しばらく休んでも違和感が続く、日常動作にも影響する、同じ場所で繰り返すといった場合は、医療機関や演奏者の身体を理解している専門家へ相談する。ここで必要なのは、根性ではなく原因の切り分けだ。

痛みの原因は、指の動かし方だけとは限らない。椅子の高さ、鍵盤との距離、肩の上がり、手首の角度、練習時間の急な増加なども関係する。速いフレーズを練習する前に、身体全体が無理なく鍵盤へ届いているかを確認したい。

弾いていない指を押さえ込まない

3指で音を弾いているとき、4指と5指を鍵盤に押し付けて固定する練習は、独立性を高めるどころか、手の中に余計な緊張を作ることがある。弾いていない指は、鍵盤の近くにあってよい。ただし、音が鳴るほど押さえ込まない。

この練習では、あえて小さな音量にする。小さい音で弾くと、押し付けや指の跳ね上がりに気づきやすい。鍵盤の底まで強く押すことを目標にせず、音が立ち上がったあとに指がすぐ解放できるかを聴く。

メトロノームの音量に合わせない

メトロノームのクリックが大きいと、ピアノの音も同じ大きさにしようとして、鍵盤を強く叩くことがある。しかし、合わせるべきなのは音量ではなく、時間の位置だ。

クリックの前に走っていないか、後ろへ遅れていないかを聴く。必要ならメトロノームの音量を下げ、自分の音の強弱を自分で管理する。クリックが鳴っていないあいだも拍が続いている感覚を持てれば、音量でテンポを合わせる癖は減っていく。

裏拍を練習するときも、アクセントを力任せに強くしない。身体が前へ突っ込むように弾くのではなく、拍の位置を保ったまま、音の重心だけを移動させる。ジャズのスウィング感は、強く叩いた音から生まれるものではない。音の長さ、休符、リリース、次の音までの空間が組み合わさって生まれる。

機材の重さだけで脱力は決まらない

鍵盤の重さやタッチ感は、練習の感覚に影響する。ただし、重い鍵盤を使えば基礎筋力がつき、軽い鍵盤なら脱力できる、と単純に考えるべきではない。機種によって、鍵盤の戻り、センサーの反応、音量の変化、ペダルの感触は異なる。

練習用の鍵盤を選ぶなら、次の点を実際に確認したい。

  • 小さい力でも音量を細かく変えられるか
  • 弱く弾いたときに、音の立ち上がりを聴き取れるか
  • 鍵盤を底まで押し込まなくても、意図した音が出るか
  • 連続打鍵で戻りが遅く感じないか
  • 自分の手首や前腕に、不要な緊張が出ないか

ヤマハのCPシリーズやNord Piano系の88鍵モデルのように、タッチやベロシティの設定を調整できるステージピアノは、音量の変化を確認しながら練習しやすい場合がある。ただし、機種名だけで適性が決まるわけではない。店舗や試奏環境で、弱い音から中程度の音までを同じフレーズで弾き、指の力みが増えないかを確認するほうが確実だ。

自宅の楽器と本番の楽器が異なる場合は、ひとつの鍵盤の感触に依存しすぎないことも大切だ。タッチが変わったときに対応できるよう、練習のなかで音量、アーティキュレーション、リリースを意識する。楽器が変わっても残るのは、鍵盤の重さではなく、音を聴いて手の力を調整する能力である。

結論:指の独立は「筋力」ではなく「設計力」で決まる

ジャズピアノの指の独立性を高めるために、特別な器具や、ひたすら負荷を加える練習が必要なわけではない。まず必要なのは、フレーズに合わせて運指を組み替える習慣だ。

そのうえで、ハノンを音型の反復から解放する。アクセント、リズム、アーティキュレーション、調、コードとの関係を変えれば、同じパターンでも別の課題になる。指を動かすだけでなく、耳で違いを聴き、手がどのように反応したかを確かめる。

4指と5指については、完全な分離を目標にしない。連動しやすい構造を前提にして、弾いていない指を押さえ込まない、指を必要以上に持ち上げない、音のあとに手を解放する。独立性は、指同士を無理に引き離すことでなく、余計な動きと緊張を減らすことで育っていく。

速いフレーズでは、2指と3指を起点として試す価値がある。ただし、それを新しい固定ルールにしてはいけない。親指を黒鍵に置くかどうかも、教則上の原則より、フレーズの方向と手の自由を優先して判断する。コードトーン、経過音、着地点にそれぞれ役割を与えれば、弱い指を無理に強くするより、ライン全体が安定する。

そして、痛みを練習の成果と取り違えないこと。練習の負荷は、音がきれいにそろい、意図したアクセントが出て、次のフレーズへ自然に移れる範囲で調整する。速さや反復回数が増えても、音の質と身体の自由が失われるなら、それは前進ではない。

ジャズピアノの指は、単純に鍛えるものではない。運指を選び、音の役割を決め、手の動きを小さくし、必要な瞬間だけ力を使う。その設計の精度が上がるほど、指のもつれは減り、アドリブの選択肢は広がる。ハノンを超えた練習法とは、別の教材を探すことではなく、目の前の音型を自分の音楽に合わせて組み直すことなのだ。

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よくある質問

ジャズピアノで指がもつれる原因は何ですか?
指の筋力不足とは限らず、無理な運指で手の形を固定し、次の動きの余地を失っている場合があります。手首や前腕の移動が不自然になっていることも原因になります。
ジャズピアノの運指はどのように決めればよいですか?
フレーズの最高音と最低音、コードトーンや着地点、次の二、三音までを確認して決めます。遅いテンポで弾き、音のつながりや手首と前腕の動きが自然かを確かめます。
ハノンをジャズピアノの練習に活用する方法は?
音型を固定したまま、レガート、スタッカート、アクセント移動、付点リズム、三連系のリズム、裏拍の強調などに変えて練習します。左手で簡単なコードを重ね、右手の音型がどの音へ着地するかを聴く方法もあります。
4指と5指の独立性を高めるにはどうすればよいですか?
4指と5指は構造上連動しやすいため、完全に分離させようとせず、弾いていない指を鍵盤へ押し付けないことが大切です。指を高く持ち上げすぎず、打鍵後に必要なタイミングで解放します。
ピアノ練習で指や手首が痛いときはどうすればよいですか?
指、手首、前腕に痛みやしびれが出た場合は、演奏を止めて休みます。違和感が続く、日常動作に影響する、同じ場所で繰り返す場合は、医療機関や演奏者の身体を理解している専門家へ相談します。

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