
この状態は、フレーズを持っているが、アドリブを構築できていない状態である。
アドリブは、完全な自由演奏ではない。曲のコード進行、構成、小節数、拍節の内部で、音の選択と配置を連続的に決定する行為である。フレーズは、その決定に利用できるメロディの断片である。両者は対立しない。役割が異なる。
問題は、フレーズを「完成した答え」として扱うことで発生する。フレーズをコードネームや度数から切り離し、指の形だけで保存すると、それは素材ではなく手癖になる。手癖は反復できる。しかし、変形できない。
アドリブとフレーズは、階層が異なる
まず定義を分ける。
アドリブは、コード進行と時間軸に対するメロディ構築の全体である。音高、リズム、休符、発音位置、フレーズの長さ、反復、変奏を含む。1小節単位の判断ではなく、少なくとも数小節から1コーラス単位で成立する構造である。
フレーズは、その構造を形成する局所的な単位である。たとえば、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰに対応する8分音符の音型、ドミナント上で3度と7度を接続するライン、ブルースでブルーノートを経由する短い動機などが該当する。
| 項目 | アドリブ | フレーズ |
|---|---|---|
| 定義 | コード進行上でメロディを構築する行為 | メロディの断片、音型、リック |
| 範囲 | 数小節から1コーラス以上 | 1拍から数小節程度 |
| 主な対象 | 音高、リズム、構成、展開 | 度数、音型、アーティキュレーション |
| 役割 | 演奏全体の意思決定 | 構築に使う素材 |
| 変化 | 進行、反復、対比、休符 | 移調、音の置換、リズム変形 |
| 危険な状態 | 進行を無視して音を並べる | 指の順番だけを再現する |
この区別を曖昧にすると、「フレーズをたくさん覚えればアドリブができる」という誤った結論に進む。必要なのは収集量ではない。フレーズを、どのコードの何度として認識しているかである。
たとえば、ハ長調のⅡ-Ⅴ-Ⅰである。
- Dm7:1、♭3、5、♭7
- G7:1、3、5、♭7
- CM7:1、3、5、7
ここで、Dm7からG7を経由してCM7に着地するラインを覚えるとする。音名だけで覚えれば、移調時に形が崩れる。度数で覚えれば、機能を保ったまま移動できる。
さらに必要なのは、各コードの構成音だけではない。ラインがどこへ向かっているかである。G7の3度であるBは、CM7のルートへ半音上行する。G7の♭7であるFは、CM7の3度へ半音下行する。この二つのガイドトーンを含むラインは、コード名をなぞるだけのスケール練習とは異なる。
フレーズは音型である。アドリブは、音型をコード進行と時間軸に従って再配置する判断である。
判断基準は「変えられるか」ではなく「何を保って変えるか」
フレーズを理解しているかどうかは、原型を再現できるかでは判定できない。原型のどの要素を維持し、どの要素を変えられるかで判定する。
一つのフレーズには、少なくとも次の要素が含まれる。
- コードに対する度数
- 着地点となる音
- 音の方向性
- リズムの骨格
- アクセントの位置
- 発音の長さ
- 前後のコードとの接続
- フレーズが開始する拍
- 休符の位置
たとえば、8分音符4つの音型を覚えたとする。この音型の本体が「4音の順番」だけなら、応用範囲は狭い。実際には、最後の音が次のコードの3度へ解決すること、2拍目裏から開始すること、最後に休符があることが本体かもしれない。
音符の順序を変えても、着地点とリズムの骨格が残れば、同じ機能を持つ場合がある。逆に、音符を一つも変えなくても、開始位置と解決先を変えれば別の働きになる。
手癖の正体は、音ではなく接続規則の固定である
手癖という言葉は、しばしば否定的に使われる。しかし、手癖そのものは問題ではない。演奏者が無意識に使う短い音型は、長期的に蓄積された運動記憶である。定番のリックを持たない演奏は成立しない。
問題は、手癖がコード進行に対して固定されていることである。
同じⅡ-Ⅴ-Ⅰのフレーズを、毎回同じ拍から開始する。同じ音域で弾く。同じ最後の音へ着地する。同じリズムで繰り返す。この状態では、フレーズがコードへ反応しているのではなく、コード進行をトリガーにして指の運動が再生されている。
ここでは、次の二つを区別する必要がある。
機能的な定番フレーズ
- Ⅴ7の3度へ向かう
- Ⅰの3度またはルートへ解決する
- ⅡからⅤへの緊張を形成する
- リズムを変えてもコード機能が維持される
- 異なるキーへ移調できる
- 途中の音を置換してもラインが成立する
固定化した手癖
- コードネームを見ないと開始できない
- 常に同じキーでしか弾けない
- 途中の音を一つ変えると崩れる
- 進行が変わっても同じ音型を押し込む
- フレーズの終点が常に同じ
- 1コーラス中に同じリックが同じ位置で現れる
固定化を防ぐには、フレーズを覚えた直後に変形する必要がある。原型を長期間保存してから応用へ進む順番は効率が悪い。指が音名の並びを先に固定するためである。
最初に分解する三つの階層
フレーズを採取したら、次の三層に分ける。
1. 垂直方向の情報
各コードに対して、どの度数を弾いているかを確認する。
Dm7上のFは♭3である。G7上のBは3度である。CM7上のEは3度である。同じ音名でも、コードが変われば度数が変わる。したがって、音名の記録だけでは不十分である。
テンションを含む場合は、さらに役割を分ける。
- 9th:コードの上方へ開く
- 11th:メジャーコードでは3度との衝突を生じやすい
- ♯11:リディアン的な明るさを形成する
- 13th:ドミナントまたはメジャーコードに接続しやすい
- ♭9:ドミナントの緊張を強くする
- ♯9:短3度的な摩擦を含む
- ♭5または♯11:増4度の関係を形成する
- ♭13:短6度方向の緊張を作る
2. 水平方向の情報
音がどの方向へ進むかを確認する。半音上行、全音下行、3度跳躍、アルペジオ、クロマチック・アプローチ。これらは音の意味を変える。
コードトーンの連続だけでは、ラインは単純な分散和音になる。アプローチノートを含めると、非コードトーンが着地点を指定する。重要なのは、外れた音を使うことではない。外れた音がどの音へ解決するかである。
3. 時間方向の情報
開始拍、裏拍、音価、休符を確認する。
ジャズの8分音符を、均等な機械的分割として扱うと、ラインの機能が変わる。スウィングでは、表拍と裏拍の関係が推進力を形成する。ただし、スウィング感は音価を固定比率で処理することではない。テンポ、アクセント、アーティキュレーションによって変化する。
リズムの骨格を抽出する場合、音高を一度捨てる。1コーラスを単一音、または手拍子で演奏する。これで、フレーズの本体が音高なのか、リズムなのかを判別できる。
Ⅱ-Ⅴ-Ⅰでフレーズを崩す
ジャズピアノの即興で最も頻出する構造の一つがⅡ-Ⅴ-Ⅰである。ここでは、ハ長調のDm7-G7-CM7を用いる。
原型のフレーズを、そのまま移動させるだけでは応用にならない。まず、コードの機能を確認する。
- Dm7:トニックへ向かう前のプレドミナント
- G7:解決を要求するドミナント
- CM7:一時的な到着点
- F、B:G7からCM7へ接続するガイドトーン
- B♭、E♭など:文脈に応じてブルースまたはクロマチックな外部音
G7上では、コードトーンを中心にする方法と、テンションを中心にする方法がある。
ナチュラルな選択では、G7の9thであるA、13thであるEを利用できる。より強い緊張を形成する場合、♭9のA♭、♯9のB♭、♯11のC♯、♭13のE♭などを配置する。ただし、これらは「使えばジャズになる音」ではない。解決方向が明確である場合にのみ機能する。
ドミナント上のテンションを度数で選ぶ
G7からCM7へ進行する場合、テンションの選択は次のように整理できる。
| G7上の音 | 度数 | 主な機能 | CM7への接続例 |
|---|---|---|---|
| B | 3度 | メジャー性を確定 | CまたはEへ |
| F | ♭7 | ドミナント性を確定 | Eへ半音下行 |
| A | 9th | 開いた緊張 | GまたはEへ |
| E | 13th | 明るい上方テンション | D、E、Cへ |
| A♭ | ♭9 | 強い解決圧 | GまたはEへ |
| B♭ | ♯9 | 短3度的な摩擦 | AまたはGへ |
| C♯ | ♯11 | トライトーン周辺の緊張 | DまたはCへ |
| E♭ | ♭13 | 暗い緊張 | DまたはEへ |
ここで、テンションを並べること自体を目的にしない。G7の♭9を使うなら、どこへ解決するかを先に決める。A♭からGへ進めば、下行するクロマチックな動きになる。A♭からEへ進めば、CM7の3度への間接的な解決になる。
アドリブのラインは、スケールの選択だけでは決まらない。時間上の着地点と、度数の接続で決まる。
フレーズの変形手順
一つのⅡ-Ⅴ-Ⅰフレーズを、次の順で変形する。
1. 原型を度数に置き換える
音名を消し、各コードに対する1、♭3、3度、♭7、9thなどで記録する。コードをまたぐ音は、どのコードに属するかを明確にする。
2. 終点を変更する
CM7のルートへ着地していたラインを、3度のE、5度のG、7度のBへ変更する。終点が変われば、同じ途中経過でも意味が変わる。
3. アプローチノートを加える
目的音の半音上または半音下から接近する。たとえば、Cへ解決する直前にD♭またはBを置く。アプローチノートは拍の位置と音価が重要である。
4. 音を抜く
8分音符を連続させたラインから、1音または2音を削除する。空白は構造の一部である。音を追加するより、休符を配置する方がラインの輪郭は明確になる。
5. 開始位置を移動する
1拍目から始まるフレーズを、2拍目裏または4拍目裏から開始する。コードとの関係を維持したまま、時間軸だけを変更する。
6. リズムを置換する
8分音符の連続を、付点音符、シンコペーション、3連符、休符を含む形へ変更する。音高を保ち、リズムだけを変える。
7. 音域を移動する
同じ度数関係を1オクターブ上または下へ移動する。音域が変わると、アタックと密度の印象も変わる。
8. コードごとの分割を崩す
Dm7で4音、G7で4音、CM7で4音という配置をやめる。Dm7からG7へ早く侵入し、次のコードのテンションを先取りする。
この順序には意味がある。いきなり別のフレーズを探すと、手元の素材に対する理解は増えない。まず原型の機能を保存し、局所的な条件だけを変える。
マイナーⅡ-Ⅴ-Ⅰでは、オルタードの選択を固定しない
マイナーⅡ-Ⅴ-Ⅰでは、ドミナントに対する選択がさらに複雑になる。たとえば、Dm7♭5-G7♭9-Cm7という進行である。
ここで、G7に対して常にオルタード・スケールを使用するという処理は粗い。オルタード・スケールは、G7の♭9、♯9、♭5、♯5を含む。強い緊張を形成できるが、ライン全体がそれだけで構成されると、解決先との距離が過剰になる場合がある。
Cm7への解決を考えるなら、次の音が基準になる。
- C:トニックのルート
- E♭:短3度
- G:5度
- B♭:短7度
G7上のBはCへ半音上行する。しかし、Cm7の短3度であるE♭へ向かう場合、G7の♯9であるB♭を利用できる。G7の♭9であるA♭は、GまたはE♭へ接続できる。F♯はGへ半音上行する導音として機能する。
この場合、テンションの選択は「オルタードか、ナチュラルか」という二択ではない。着地点との関係で決まる局所的な選択である。
ルートレス・ヴォイシングとアドリブの関係
左手の伴奏をルートレス・ヴォイシングにすると、右手のラインがコードの根音に依存しにくくなる。
Cm7では、E♭-G-B♭-Dという構成を基本にできる。G7では、B-E♭-A♭-Cという配置がある。これは3度、♭13、♭9、♭7を含むドミナントの形である。ボイスリーディングによって、各音が短い距離で次のコードへ移動する。
右手のアドリブがルートを頻繁に弾かなくても、左手のヴォイシングが機能を提示する。これにより、右手は3度、7度、テンション、クロマチック・アプローチへ集中できる。
ただし、ルートレス・ヴォイシングは単なる省略形ではない。コードの情報を残したまま、音域と配置を最適化する技術である。左手が3度と7度を含まない場合、右手がその機能を担う必要がある。伴奏と即興は別々の作業ではない。
テンションは選択肢ではなく、解決先との距離として定義する。音単体に意味はない。
耳コピは、音列の保存ではなく発音機構の抽出である
ジャズのフレーズ練習で、耳コピは不可欠である。ただし、採譜して音符を暗記するだけでは不十分である。楽譜に記録できる情報と、記譜から抜け落ちる情報を分ける必要がある。
記譜できる情報は、音高、音価、休符、小節位置である。一方、次の要素は楽譜だけでは固定しにくい。
- 音の立ち上がり
- アクセントの強度
- 8分音符の揺れ
- 音の長さ
- タッチの硬さ
- 音の切り方
- 装飾音の速度
- 拍の前後への微細なずれ
ジャズフレーズを自分の演奏へ移すには、音列を記憶するのではなく、発音の仕組みを抽出する必要がある。
耳コピの手順
耳コピは、次の順で行うと情報が混線しにくい。
1. まずリズムだけを取る
音高を考えず、アクセントと休符を確認する。手拍子、単音、声のいずれでもよい。フレーズの輪郭がリズムにある場合、音高から始めると構造を見失う。
2. 次に着地点を取る
すべての音を順番に採取する前に、各コードの強拍に現れる音を確認する。3度、7度、ルート、テンションのどれかを特定する。着地点が分かれば、途中の経過音は後から分類できる。
3. 音名ではなく度数で記録する
移調可能性を確保するため、コードに対する度数を記録する。たとえば、Ⅴ7上の♭9から3度へ進み、Ⅰの3度へ解決するという構造である。
4. アーティキュレーションを模倣する
音を押す位置、離す位置、アクセント、レガートの範囲を確認する。指使いをそのままコピーする必要はない。音の接続方法をコピーする。
5. 原曲と異なるキーで演奏する
移調できないフレーズは、コードとの関係が保存されていない可能性が高い。12キーすべてを同じ精度で行う必要はないが、少なくとも複数キーで確認する。
6. 原曲のコード以外へ接続する
Ⅱ-Ⅴ-Ⅰで採取したフレーズを、ブルースのターンアラウンドやセカンダリー・ドミナントへ接続する。用途を一つに固定すると、フレーズが再び手癖になる。
採譜したフレーズを自分の言葉に変える
原曲のフレーズを、そのまま演奏できることは第一段階である。第二段階では、構造を残して表面を変える。
- 音程の一部を反転する
- 最後の音だけを変更する
- 途中のクロマチック音を削除する
- 休符を追加する
- 開始拍を裏へ移動する
- 1オクターブ上へ移す
- 3連符へ置換する
- 反復回数を変える
- 同じリズムを別の度数へ適用する
- Ⅱ-Ⅴ-Ⅰの前半だけを取り出して別の解決先へ向ける
ここで、原曲の癖を消す必要はない。むしろ癖は残る。ただし、癖を構造として操作できる状態にする。
リズムを制御しなければ、音の選択は動かない
アドリブの停滞を、スケール不足として処理するケースがある。しかし、実際にはリズムの固定が原因であることが多い。
同じ音階を使っても、開始位置、音価、休符、アクセントが変わればラインは変化する。逆に、異なるスケールを使用しても、毎回1拍目から8分音符を連続させれば、演奏の構造は固定される。
ジャズピアノのアドリブでは、音を弾く能力だけでなく、弾かない位置を管理する能力が必要である。
8分音符のスイング感を分解する
スイングの8分音符は、単純な均等分割とは異なる。長短の比率だけで処理すると、テンポによって不自然になる。必要なのは、次の要素を分けて確認することである。
- 表拍に置かれる音の強度
- 裏拍へ向かう推進
- 音の長さ
- 休符の有無
- アクセントの移動
- フレーズ末尾の解放
同じ4音でも、すべてを同じ長さで弾く場合と、最初の音を短く切り、最後の音を次の拍まで延ばす場合では、時間構造が異なる。
まず、単一音でリズムを練習する。次に、コードの3度だけで同じリズムを演奏する。その後、度数を戻す。この順序により、音高の変化がリズムの不安定さを隠すことを防げる。
休符は、フレーズの外部ではない
初心者のラインには休符が少ない。音を埋め続けるため、フレーズの開始点と終点が不明瞭になる。これは語彙の不足ではなく、区切りの設計不足である。
休符を意図的に配置する方法は複数ある。
1. 2拍目を空ける
1拍目に短い動機を置き、2拍目を休む。後半の応答を明確にする。
2. 4拍目を空ける
次のコードへの接続を伴奏へ委ねる。ラインの終止感が生じる。
3. 小節末尾を空ける
次小節の裏拍から再開する。コードチェンジを先取りできる。
4. 動機の途中で切る
完全なフレーズを最後まで弾かない。聴き手に続きを予測させる構造になる。
5. 2小節単位で音数を減らす
1小節目に情報を置き、2小節目に空間を作る。結果として、ソロ全体の呼吸が整理される。
アドリブは、音を連続させる能力の競争ではない。音と無音の配分を決める作業である。
1コーラスを構築するための実践単位
フレーズ単体の練習を続けても、1コーラスのソロは自動的に形成されない。アドリブには、局所的な音型とは別に、長い時間軸の設計が必要である。
12小節ブルースを例にする。1コーラスの中で、すべての小節へ異なるフレーズを配置する必要はない。むしろ、同じ動機を変形しながら進める方が構造は明確になる。
12小節で設定する要素
- 1~4小節目:短い動機を提示する
- 5~8小節目:同じ動機を別のコードへ移す
- 9~10小節目:音域またはリズムを変える
- 11~12小節目:ターンアラウンドへ接続する
ここで重要なのは、動機の反復とコピーを区別することである。完全コピーは同一性を示す。度数、リズム、開始位置のいずれかを変えれば、反復は発展になる。
たとえば、1~2小節目で3度上行の動機を提示する。3~4小節目では同じリズムを5度から開始する。5~6小節目では反転させる。7~8小節目では最後の音を半音上からアプローチする。音型の核を保ったまま、文脈を変える。
1コーラス目と2コーラス目を分ける
1コーラス目から音数と音域を最大化すると、2コーラス目で変化を出せない。演奏全体を設計するなら、コーラスごとに役割を分ける。
| コーラス | 主な目的 | 音の扱い |
|---|---|---|
| 1コーラス目 | コードと動機を提示 | 3度、7度、短いフレーズを中心にする |
| 2コーラス目 | 動機を変形する | クロマチック、テンション、裏拍を増やす |
| 3コーラス目 | 音域と密度を上げる | 連続ライン、オクターブ移動、反復を使う |
| 終止部 | 解決と収束 | 主要音へ着地し、余分な情報を減らす |
これは固定的な規則ではない。しかし、音数を増やすことだけを展開と定義しないための基準になる。
スケールは、フレーズの代替物ではない
スケール練習は必要である。だが、スケールを上下する能力と、コード進行上でメロディを構築する能力は一致しない。
スケールは音の集合である。フレーズは、音の順序、リズム、方向、着地点を持つ。アドリブは、そのフレーズを時間上に配置する。
たとえば、G7上でミクソリディアンを弾く場合、G、A、B、C、D、E、Fが使用できる。音の集合としては成立する。しかし、Bを避け続ければ、G7のメジャー性は弱くなる。FからEへ進めばCM7の3度へ接続できる。AからGへ進めば9thからルートへの下行になる。
同じスケールでも、どの音を強拍に置くかで、コードとの関係は変化する。
スケールを練習するときは、上下行だけで終了しない。次の処理を加える。
- 3度間隔で演奏する
- 4音ごとに方向を反転する
- コードトーンへ着地する
- クロマチック・アプローチを追加する
- 開始拍を変える
- 1音だけを長く伸ばす
- 休符を挿入する
- Ⅱ-Ⅴ-Ⅰをまたいで連続させる
これにより、音階がラインの材料になる。音階そのものをフレーズと誤認する状態から離れられる。
フレーズ集を使う場合の分類法
フレーズ集は、量を増やすためだけに使用すると効果が薄い。必要なのは、フレーズをコード進行別、機能別、度数別に分類することである。
最低限、次の分類を作る。
コード進行による分類
- メジャーⅡ-Ⅴ-Ⅰ
- マイナーⅡ-Ⅴ-Ⅰ
- ドミナントの連続
- セカンダリー・ドミナント
- ターンアラウンド
- ブルース進行
- Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ
- 下降するベースライン上の進行
着地点による分類
- Ⅰのルートへ解決する
- Ⅰの3度へ解決する
- Ⅰの5度へ解決する
- Ⅰの7度へ解決する
- 次のコードの3度を先取りする
- テンションへ解決する
音型による分類
- 分散和音
- クロマチック・アプローチ
- エンクロージャー
- 3度進行
- 4度進行
- 半音階的下降
- ブルーノートを含む型
- 反復動機
この分類により、「何となく使えそうなフレーズ」を探す状態から、「G7の♭9からCm7の3度へ解決する2拍の型を使う」という状態へ移行できる。
練習では、正解を増やすより条件を変える
アドリブ練習で、毎回違う音を弾こうとする必要はない。自由度を無制限にすると、構造を検証できない。条件を限定し、その条件を一つずつ変更する方がよい。
一つの練習単位を、次のように設定する。
1. 右手は3度と7度だけを使う。
2. 次に、各コードの9thを一つ追加する。
3. その後、半音下のアプローチノートを追加する。
4. 4小節ごとに休符を置く。
5. 同じ動機を異なる開始拍へ移す。
6. 2コーラス目で音域を1オクターブ上げる。
7. 最後に、使用音を制限せず自由に演奏する。
制限を解除した後も、何が変化したかを確認する。音数が増えたのか。リズムが変わったのか。着地点が変わったのか。分析できない変化は、再現できない。
練習の基準は、流暢さだけではない。次の問いに答えられるかどうかである。
- 今の音は、どのコードの何度か
- 次にどの音へ解決するか
- フレーズは何拍目から始まったか
- どの音を残し、どの音を省略したか
- 原型から何を変えたか
- その変化は音高、リズム、音域のどれか
- 1コーラス全体で動機がどう展開したか
すべてを演奏中に言語化する必要はない。しかし、練習後に説明できない場合、偶然の成功と構造的な成功を区別できない。
代替可能なヴォイシングのパターン
右手のフレーズを変形するには、左手のコード配置も固定しない方がよい。同じ進行でも、ヴォイシングが変われば、右手が必要とする情報量が変わる。
メジャーⅡ-Ⅴ-Ⅰ
- Dm7:F-C-E-A
3度、♭7、9th、5度を含む。
- G7:F-B-E-A
♭7、3度、13th、9thを含む。
- CM7:E-B-D-A
3度、7度、9th、6度を含む。
この配置では、左手がルートを省略し、右手は3度、7度、9th、13th、クロマチック音へ移動できる。
マイナーⅡ-Ⅴ-Ⅰ
- Dm7♭5:F-A♭-C-E♭
- G7♭9:F-A♭-B-E♭
- CmM7:E♭-B-D-G
ここでは、G7の♭9と♭13を含む配置から、CmM7の3度、7度、9thへ接続する。左手の内声が半音または全音で動くため、右手のテンション選択を支える。
3度と7度だけの骨格
より薄い配置では、各コードの3度と7度だけを使用する。
- Dm7:F-C
- G7:B-F
- CM7:E-B
この骨格は、コードの機能を保持する。右手が自由に動くためには、最初にこの二音だけで進行を確認する必要がある。テンションを加える前に、基本機能を確定する。
4度堆積型
4度を中心に積み上げる配置は、3度を明示しない場合がある。そのため、メジャーとマイナーの判定が曖昧になる。一方で、モーダルな場面や、右手のラインが3度を提示する場面では有効である。
- Dm7:D-G-C-F
- G7:G-C-F-B♭
- CM7:C-F-B-E
ただし、Fが含まれるため、CM7上では11thと3度の衝突が生じる。CM7の性質を明確にしたい場合、FをF♯へ変更して♯11とする、またはFを省略する。ヴォイシングは音を積む作業ではない。必要な度数を残し、不要な衝突を処理する作業である。
まとめ
ジャズのアドリブとフレーズの違いは、自由か固定かではない。全体構造と局所素材の違いである。
フレーズは必要である。定番フレーズも必要である。問題は、それを音名の列や指の順番として保存することにある。コードに対する度数、解決先、リズム、開始位置、アーティキュレーションを分解すれば、フレーズは変形可能な素材になる。
アドリブを構築するための基準は明確である。
- コード進行の機能を把握する
- フレーズを度数で記録する
- 着地点を変更する
- テンションを解決先との距離で選ぶ
- リズムと休符を独立して操作する
- 耳コピで発音とアーティキュレーションを抽出する
- 1コーラス単位で動機を展開する
- 左手のヴォイシングと右手のラインを連動させる
原型を弾けることは出発点である。原型を崩し、必要な機能だけを残し、別のコードと時間軸へ再配置できたとき、フレーズは手癖から語彙へ変わる。
そして、語彙を選択し、変形し、配置する全体の行為がアドリブである。
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