
アッパーストラクチャートライアドは、コードを一つの大きな和音として丸暗記する方法ではありません。左手にコードの骨格を置き、その上に右手で別のメジャーまたはマイナーの三和音を重ねます。すると、複雑に見えるテンションが、右手の指の形として整理されるんです。
たとえば、ドミナントセブンスコードの上に右手でニ長三和音を置く形があります。左手でC7の骨格、つまり「ド・ミ・シ♭」を押さえ、右手で「レ・ファ♯・ラ」を弾くと、9th、♯11th、13thが一度に現れます。理論上は複数のテンションを含んでいるのに、右手は三和音の形のまま。ここに、この方法の扱いやすさがあります。
アッパーストラクチャートライアドは、難しいテンションを増やす方法ではなく、右手の中に響きの形を見つける方法です。
アッパーストラクチャートライアドの基本構造
左手はコードの骨組みを担当する
まず、左手で何を弾くのかを整理しましょう。
ジャズピアノのヴォイシングでは、すべての音を左手に詰め込む必要はありません。特にドミナントセブンスコードでは、コードの性格を決める3度と7度が重要です。この二つの音は、互いにトライトーンの関係になっています。
たとえば、C7なら、3度はミ、7度はシ♭です。
- ミ:C7が長三和音系のドミナントであることを示す音
- シ♭:コードの7thとして、次のコードへ進みたがる音
この二音だけでも、C7の輪郭はかなり伝わります。ここへルートのドを加える場合もありますが、ベース奏者がいるセッションでは、左手がルートを弾かないルートレス・ヴォイシングのほうが、音域に余裕が生まれます。
最初から左手で「ド・ミ・シ♭」、右手で三和音、さらに別のテンションまで入れようとすると、手の幅も音域も窮屈になりやすいですよね。まずは左手を3度と7度に絞って、右手の三和音をきれいに重ねるところから始めてみましょう。
右手はテンションのまとまりを作る
右手に置くのが、アッパーストラクチャーです。
ここで使うのは、基本的にメジャーまたはマイナーの三和音です。右手で一音ずつテンションを探すのではなく、三和音の構造を借りることで、複数の音が一つのまとまりになります。
C7の上にDメジャーを重ねる場合を見てみましょう。
- 左手:ミ、シ♭
- 右手:レ、ファ♯、ラ
Cを基準にすると、右手の音は次のように働きます。
- レ:9th
- ファ♯:♯11th
- ラ:13th
つまり、右手のDメジャーは、C7の上で9th、♯11th、13thをまとめて鳴らす三和音になります。ここで大切なのは、右手の三音を「レは9th、ファ♯は♯11th、ラは13th」と毎回ばらばらに覚えることではありません。
「C7の上にDメジャーを置く」と、右手の形そのものを覚えてしまう。これがアッパーストラクチャーの実践的な覚え方です。
ルートを弾かない場合でも、コードは消えない
ルートレス・ヴォイシングに慣れていないと、左手からルートを外すことに不安を感じるかもしれません。コードネームに書かれている根音を弾かないと、コードが違って聞こえるような気がしますよね。
けれども、3度と7度が残っていれば、コードの機能は十分に示せます。さらに右手の三和音がテンションを加えることで、ルートを弾かないぶん、音響全体が軽くなり、ベースラインやメロディの居場所も広がります。
ただし、これはいつでもルートを省けばよいという話ではありません。ソロピアノでは、左手がベースの役割まで担うことがありますし、曲の冒頭や転調の場面ではルートを鳴らしたほうが響きの方向を伝えやすい場合もあります。
私がこの形を使うときも、まずコードの根音を一度鳴らして耳の中に置き、それからルートを外します。指が覚える前に、耳がコードの中心を知っていることが大切なんです。
ドミナントセブンスコードでテンションを整理する
なぜドミナントコードと相性がよいのか
アッパーストラクチャートライアドは、特にドミナントセブンスコードの上で使いやすい方法です。
ドミナントコードには、次のコードへ進もうとする力があります。3度と7度がトライトーンを作り、そこへ9th、♯11th、13th、♭9th、♯9th、♭13thなどを加えると、緊張感の種類を細かく変えられます。
ただ、テンションを一音ずつ足すだけでは、どの音が響きの中心なのか分からなくなりやすい。特に左手の音域が低すぎると、3度とテンションの距離が近くなり、音が団子のように聞こえることがあります。
右手の三和音を使うと、テンション同士の音程関係がある程度保たれます。指の腹で三音をまとめて押さえたとき、音がばらばらに散らず、一つの色として立ち上がる。これが、濁りを抑えやすい理由です。
C7の上にDメジャーを置く
まずは、もっとも分かりやすい形から弾いてみましょう。
左手をミとシ♭、右手をレ・ファ♯・ラにします。音域は、左手を中央ドより下のミとシ♭、右手を中央ド周辺から上に置くと、音がぶつかりにくくなります。
このとき、左手のミと右手のレは隣り合っていますが、左手と右手を同じ高さに詰め込まなければ、響きは整理されます。右手の三和音は、基本形のままでも構いません。まずは次の順序で確認してみましょう。
1. 左手でミとシ♭だけを弾き、C7の緊張感を耳で確認する
2. 右手のレ・ファ♯・ラを、三和音として一度に押さえる
3. 左手と右手を同時に鳴らし、音が濁らず上方向へ広がるか聴く
4. 右手だけを何度か弾き、Dメジャーの形を指に覚えさせる
5. FメジャーやB♭メジャーなど、次のコードへ右手を移動する
最後の段階では、C7からFメジャーへ進む「Ⅱ―Ⅴ―Ⅰ」の一部として使ってみると、機能が見えやすくなります。C7の響きは、Fへ着地する前の緊張です。右手のDメジャーを鳴らしたまま、左手だけを移動させても、和声の流れが感じられるでしょう。
テンションは「入るか」より「どこへ向かうか」
テンションコードを学んでいると、使える音と使えない音を細かく分類したくなります。もちろん、コードスケールやアボイドノートを知ることは役に立ちます。
でも、実際の演奏では、ある音が完全に禁止されているというより、その音をどの位置で、どのくらいの長さで鳴らすかが問題になります。たとえば、コードの3度と半音でぶつかる音は、低い音域で長く保持すると濁りやすい。一方で、上声部の一瞬の経過音として使えば、緊張感として美しく働くこともあります。
アッパーストラクチャートライアドを使うときは、三和音を乗せる前に、次の三点を耳で確認してみてください。
- 左手の3度と7度が、コードの機能をきちんと示しているか
- 右手の三和音に、左手と強く衝突する音が含まれていないか
- そのテンションが、次のコードやメロディへ進む方向を持っているか
「この三和音は使える」と覚えるだけで終わらず、どの音が次の和音へ解決したがっているのかを聴く。そこまでできると、コードネームを追いかける演奏から、音の流れを扱う演奏へ少しずつ変わっていきます。
濁りを消すことだけを目指すと、演奏は薄くなります。必要なのは、濁りの中にある緊張を、次の一音へ渡すことです。
アッパーストラクチャーの覚え方は、コードネームではなく形から
三和音を一つずつ鍵盤上で見つける
アッパーストラクチャーを覚えるとき、最初からすべてのキーで一覧表を暗記しようとしなくても大丈夫です。C7の上にDメジャーを置く形を覚えたら、それを半音ずつ、あるいは五度進行に沿って移動させてみましょう。
右手の形は、キーが変わっても同じです。DメジャーをE♭メジャーに移せば、今度は別のドミナントコード上で同じ種類の響きを作れます。指の間隔をそのまま保ったまま、手首の位置だけを動かす感覚を持つと、理論と身体がつながりやすくなります。
練習の最初は、左手を動かさず、右手の三和音だけを移動させても構いません。次に、左手の3度と7度をコードに合わせて変えます。最後に、ベース音を加えたり、省いたりします。
この順序なら、左手と右手が同時に迷子になりにくいですよね。
転回形はトップノートを整えるために使う
右手の三和音は、基本形だけでなく転回形も使います。
たとえば、Dメジャーなら、レ・ファ♯・ラの基本形のほかに、ファ♯・ラ・レ、ラ・レ・ファ♯という二つの転回形があります。三つの音は同じですが、一番上に来る音が変わります。
このトップノートの選択が、実際のピアノ演奏ではとても大切です。メロディがラなら、右手の一番上にラを置く。メロディがファ♯なら、ファ♯をトップにする。こうして転回形を選ぶと、コードの色を保ちながら、旋律を自然に支えられます。
反対に、いつも基本形だけで弾くと、コードが大きく上下し、フレーズの流れが途切れやすくなります。テンポが上がると左手が動かない、という悩みだけでなく、右手がコードごとに飛び跳ねてしまう問題も起きます。
私たちが目指したいのは、コードを一つずつ置き直すことではなく、声部が近い距離を歩いていくヴォイシングです。
右手の音を近くに置く練習
転回形を使った練習では、まずトップノートを固定してみましょう。
次のような練習ができます。
1. C7の上で、右手のDメジャーを三つの形で弾く
2. それぞれの形で、一番上の音がレ、ファ♯、ラになることを確認する
3. 左手をC7からFメジャーへ移し、右手の音域をできるだけ近くに保つ
4. 右手の一番上の音だけを、メロディのように歌いながら弾く
5. 音を全部同時に押さえず、左手、内声、トップノートの順に分けて聴く
このとき、手の形を固めすぎないようにしましょう。指の腹は鍵盤に触れていますが、手首まで力を入れる必要はありません。特に右手の三和音を強く押し込むと、テンションが硬く聞こえます。
呼吸を止めず、三つの音を同じ重さで弾くのではなく、トップノートに少しだけ意識を向けてみてください。和音の中に、旋律の線が現れてきます。
代表的な構成例とコードスケールの考え方
右手の三和音が何を生み出すのか
アッパーストラクチャーは、右手の三和音をそのまま別のコードとして鳴らすだけではありません。左手のコードに対して、右手の各音がどのテンションになるかを考えます。
代表的な考え方を、Cを根音とするドミナントコードの上で整理すると、次のようになります。
| 右手に置く三和音の例 | 生まれる響きの方向 | 響きの特徴 |
|---|---|---|
| Dメジャー | 9th、♯11th、13th | 明るく浮遊感があり、比較的扱いやすい |
| 根音から見た♭Ⅵ系の三和音 | ♭13thや♯9thを含む緊張 | 強い解決感と、濃いブルージーさが出る |
| 根音から見たⅥ系の三和音 | 13thや♭9thを含む色彩 | 明るさと不安定さが同居する |
| 根音から見た♭Ⅴ系の三和音 | ♭5th、♭7th、♭9th系の緊張 | かなり鋭く、半音進行と相性がよい |
| 短三和音を使う形 | オルタード系の複雑な響き | 長三和音では出しにくい陰影を作れる |
ここで、表の音名をすべて一度に暗記する必要はありません。まずは、右手のメジャー三和音を置くと明るいテンションが生まれ、短三和音や変化した位置の三和音を置くと、より強い緊張感が生まれる、と耳で覚えていきましょう。
アッパーストラクチャーの名称や表記には、教材や演奏者によって揺れがあります。三和音名をスラッシュで書く場合もあれば、上段と下段を分けて示す場合もあります。表記の違いに戸惑ったときは、記号の形よりも、実際に左手と右手がどの音を弾くのかへ戻ると整理しやすくなります。
明るいテンションと、強いオルタード感
C7の上にDメジャーを置く形は、9th、♯11th、13thを含みます。響きは広がりがあり、モダンで、比較的明るい印象です。Fメジャーへ解決する場面でも、緊張を保ちながら重くなりすぎません。
一方、♭9thや♯9th、♭13thを強く含むアッパーストラクチャーでは、音の摩擦が増します。ここで大事なのは、強いテンションを鳴らしたからといって、必ずしも演奏が高度に聞こえるわけではないことです。
テンションは、コードの前後関係の中で初めて意味を持ちます。長く滞在するトニックコードの上で強いオルタード音を鳴らせば、意図しない濁りになるかもしれません。反対に、次のコードへ半音で進むドミナントの一瞬に置けば、短い音でも大きな推進力になります。
まずは、ドミナントコードの最後の一拍だけ、変化したアッパーストラクチャーを使ってみてください。最初から一小節すべてを濃い音にするより、解決直前に色を差し込むほうが、耳にも指にも負担が少なくなります。
アボイドノートを「禁止」ではなく位置関係で見る
コードスケールを学ぶと、アボイドノートという言葉に出会います。コードの構成音と半音でぶつかりやすく、長く伸ばすと濁りにつながる音のことです。
アッパーストラクチャーを選ぶときにも、この考え方は欠かせません。ただし、アボイドノートがあるから、その三和音をすべて使えないと決めてしまうと、演奏の幅が急に狭くなります。
同じ音でも、次の条件によって聞こえ方は変わります。
- 低い音域か、高い音域か
- 強く弾くか、軽く触れるか
- 長く伸ばすか、短く通過させるか
- メロディとして目立たせるか、内声に置くか
- 次のコードでどの音へ解決するか
左手の3度と右手の三和音が近すぎる場合は、まず右手を1オクターブ上げてみましょう。これだけで濁りがほどけることがあります。次に、右手の三和音を転回して、半音で衝突する音を内側へ移します。
音を減らす前に、音域と配置を変える。これは、ピアノのヴォイシングでとても効果のある順序です。
コード進行の中でアッパーストラクチャーをつなぐ
Ⅱ―Ⅴ―Ⅰで、右手の形を先に覚える
ジャズピアノのコード進行で練習するなら、まずⅡ―Ⅴ―Ⅰがよいでしょう。ハ長調なら、Dマイナー7、G7、Cメジャー7です。
G7の上にAメジャーを置く場合、左手はG7の3度と7度、つまりシとファを中心にし、右手はラ・ド♯・ミです。そこからCメジャー7へ進むとき、右手の音をどの程度近くに置けるかを探します。
ここで、すべてのコードを同じ密度で弾く必要はありません。
- Dマイナー7:左手にファとド、右手にラ・ド・ミなど
- G7:左手にシとファ、右手にラ・ド♯・ミ
- Cメジャー7:左手にミとシ、右手にレ・ソ・シなど
このように、Ⅱでは基本的な7thコード、Ⅴでアッパーストラクチャー、Ⅰで明るく安定したヴォイシングという役割分担を作ると、響きの変化を耳で追いやすくなります。
もちろん、これは一つの例です。右手のトップノートをメロディに合わせて変えるだけで、同じ進行でも印象は大きく変わります。
左手のトライトーンを半音で動かす
コード進行が滑らかに聞こえる理由の一つは、3度と7度の動きが小さいことです。
ドミナントコードからトニックコードへ進むとき、ドミナントの3度は、トニックの3度または5度へ近い距離で移動できます。7度も同様に、半音または全音で解決します。
左手の骨格をこのように扱い、右手の三和音を転回形で整えると、両手が大きく飛ばなくても、濃い和声を作れます。鍵盤上で手が忙しく動いているのに、音楽としては落ち着いて聞こえる。そんな状態を目指してみましょう。
練習では、メトロノームを速くする前に、コードの切り替えを止まらずに行えるテンポを選びます。フレーズが途切れてしまうとき、原因は理論不足ではなく、次の形を準備する時間が足りないことが多いんです。
まずは一小節の中で使う
アッパーストラクチャーを覚えたばかりのときは、曲全体に使おうとしないほうが、耳が育ちます。
たとえば、8小節の進行のうち、Ⅴ7の一小節だけに使います。それ以外は、3度と7度を中心にしたシンプルなヴォイシングで構いません。一箇所だけ色が変わることで、テンションの効果が分かりやすくなります。
次のような段階で広げてみましょう。
1. Ⅴ7の最後の拍だけ、右手に三和音を置く
2. Ⅴ7の後半二拍へ伸ばす
3. Ⅴ7の一小節全体で使う
4. Ⅱ―Ⅴ―ⅠのⅤだけに使う
5. 曲の中で、メロディが許す場所へ少しずつ増やす
こうしておくと、アッパーストラクチャーが「常に鳴らす特別なコード」ではなく、「必要な場所で色を加える選択肢」になります。
スラッシュコードとの違いを混同しない
見た目が似ていても、考え方は別
アッパーストラクチャートライアドは、スラッシュコードと似た形で表記されることがあります。上に三和音、下に別のコードやベース音が書かれているため、楽譜だけを見ると同じものに感じるかもしれません。
しかし、両者は考え方が異なります。
スラッシュコードは、単音のベース音の上に別の三和音を置く形として説明されることが多いものです。たとえば、Dメジャーの三和音をCのベース音の上に置く場合、Cという低音に対してDメジャーが乗っている、と考えます。
一方、アッパーストラクチャートライアドでは、左手側にコードの3度や7度を含むローワー・ストラクチャーがあります。つまり、単にベース音と上の三和音を組み合わせるのではなく、コードの機能を示す骨格の上に、テンションのまとまりを重ねているんです。
| 見るポイント | スラッシュコード | アッパーストラクチャートライアド |
|---|---|---|
| 下側の音 | ベース音として扱うことが多い | 3度・7度やルートなど、コードの骨格を置く |
| 上側の音 | 別の三和音やコード | メジャーまたはマイナーの三和音 |
| 主な目的 | ベース音と上部和音の組み合わせを示す | テンションを構造的に整理する |
| ドミナント機能 | 必ずしも明確とは限らない | 3度と7度によって機能を示しやすい |
| 表記の注意 | オンコードとして読まれることがある | 教材によりスラッシュや上下表記が異なる |
たとえば「D/C」と書かれていても、それがベースにCを置くオンコードなのか、C7の上にDメジャーを置くアッパーストラクチャーなのかは、前後のコードや楽譜の説明によって変わります。
表記を見たら、まず音名に分解してみましょう。左手は何を弾くのか、右手はどの三和音なのか、そしてその組み合わせが元のコードに対してどんな音程を作るのか。記号をそのまま手の形に変換する前に、音の役割を確認すると、読み違いが減ります。
コードネームを三和音へ翻訳する
アッパーストラクチャーを覚えると、コードブックの見方も変わります。
たとえば、複雑なテンションコードを見たときに、「9th、♯11th、13thを全部探して、順番に押さえなければ」と考えるのではなく、「この響きは、右手のどの三和音に置き換えられるだろう」と考えられます。
もちろん、すべてのコードが一つの三和音にきれいに収まるわけではありません。ボイシングによっては、三和音から音を省いたり、音を重ねたり、転回形を選び直したりします。それでも、複雑なコードを視覚的な形へ翻訳する発想は、演奏中の負担を大きく減らしてくれます。
特に、アドリブの伴奏で一瞬のコードを弾くとき、左手でテンションを一音ずつ探すのは難しいですよね。右手の三和音をいくつか知っていれば、鍵盤の上で形を見つける速度が上がります。
アッパーストラクチャーをアドリブと伴奏へ生かす
バッキングでは音数よりも配置を聴く
ジャズピアノのバッキングでは、音をたくさん鳴らせばよいわけではありません。むしろ、音数が増えたときに、どの声部がメロディを邪魔しているかを聴くことが大切です。
右手の三和音をそのまま強く弾くと、メロディが埋もれることがあります。その場合は、三和音の一番上の音をメロディに合わせ、内側の音を少し軽くします。左手も、低いルートを毎回重く鳴らすのではなく、3度と7度を中音域に置いて、ベースの動きを空けておきます。
ピアノ一台で弾くときは、ルートを省く判断が難しくなるかもしれません。そんなときは、曲の最初のコードや、ベースラインが休む場所だけルートを加え、それ以外ではルートレスにする方法があります。
このように、アッパーストラクチャーは「豪華な伴奏を作る技法」というより、音域を分担しながら、必要な色を残す技法です。
アドリブでは右手の三和音をフレーズの材料にする
右手の三和音は、伴奏だけでなく、アドリブの素材にもなります。
G7の上でAメジャーの音、つまりラ・ド♯・ミを使うと、9th、♯11th、13thの響きを持つフレーズが作れます。三和音を上行、下行、分散の順に弾くだけでも、コードスケールをただ上下するより、輪郭のあるラインになります。
たとえば、ラからド♯、ミへ上がったあと、ド♯へ戻り、次のCメジャー7のDやミへ解決する。ここでは、右手の三和音をずっと鳴らし続ける必要はありません。三つの音をフレーズとして使い、最後にコードトーンへ着地させます。
短いモチーフにすると、さらに扱いやすくなります。
- 三和音の三音を順番に上行する
- 最高音から下へ戻る
- 二音を繰り返し、三音目で解決する
- 三和音の一音を半音下から近づける
- 次のコードの3度や7度へつなげる
このとき、理論上のテンション名を頭の中で言い続けなくても大丈夫です。まずは三和音の形を耳で歌い、その音が次のコードのどこへ進むのかを感じます。
右手と左手の役割を入れ替えない
アッパーストラクチャーを練習していると、右手の三和音に意識が集中し、左手のコード機能を忘れやすくなります。右手だけを移動させていると、どのコードの上に乗せているのかが曖昧になってくるんです。
そこで、左手を先に弾く練習を入れてみましょう。
左手で3度と7度をゆっくり鳴らし、コードの性格が耳に残ったところで、右手の三和音を加えます。右手を外したときにも、左手だけでコードの流れが聞こえるなら、骨格はできています。
反対に、右手の三和音を外すと、何のコードか分からなくなる場合は、左手の3度と7度の位置や音域を見直してみましょう。アッパーストラクチャーは、左手の代わりではありません。左手の機能を補強し、その上に色を加えるものです。
無理なく身につけるための練習手順
最後に、実際の練習を一つの流れにまとめます。速いテンポで何度も繰り返すより、音の役割を一つずつ確かめるほうが、結果的に近道になります。
1. コードの3度と7度だけを弾く
まず、ドミナントセブンスコードの3度と7度を、左手で弾きます。C7ならミとシ♭、G7ならシとファです。
音を押さえたまま、次のコードへどちらの音がどこへ進みたがっているかを聴きます。ここで呼吸を止めず、音が伸びている間に次の形を準備します。
2. 右手で一つの三和音を弾く
次に、右手でDメジャーなど、決めた三和音を弾きます。左手を加えず、右手の三音が一つの和音として揃っているか確認します。
指の腹で鍵盤を押し込みすぎず、手のひらを柔らかく保ちます。三音のうち一音だけが飛び出す場合は、指の強さを均等にするのではなく、どの音を聴かせたいのかを決めてください。
3. 左手と右手を重ねる
左手の3度と7度、右手の三和音を重ねます。最初は同時に弾かなくても構いません。左手、右手、両手という順番で、響きの変化を聴きます。
濁ったときは、すぐに音を減らすのではなく、次の順番で調整します。
- 右手を1オクターブ上げる
- 右手の三和音を転回する
- 左手を少し低く、右手を少し高く離す
- ぶつかる音を短くする
- 最後に、必要なら音を一つ省く
4. Ⅱ―Ⅴ―Ⅰに組み込む
単独のコードで響きが分かったら、Ⅱ―Ⅴ―Ⅰへ入れます。Ⅴだけにアッパーストラクチャーを使い、ⅡとⅠはシンプルなヴォイシングにします。
テンポは、両手が次の形へ無理なく移れる速さで十分です。フレーズが途切れたり、左手が遅れたりする場合は、テンポを落とすことに遠慮はいりません。遅いテンポで呼吸を保てることが、速いテンポの土台になります。
5. トップノートをメロディに合わせる
最後に、右手の転回形を選びます。トップノートをメロディに合わせ、コードの色を保ったまま旋律を支えます。
ここで、すべてのコードを完璧につなげなくても大丈夫です。まずは一つの進行の中で、トップノートが半音または全音で動く箇所を一つ見つけてください。その小さな動きが、ヴォイシング全体を滑らかにしてくれます。
アッパーストラクチャートライアドは、最初から複雑なコードを自在に弾くための魔法ではありません。左手の骨格、右手の三和音、音域、転回形、そして次のコードへの解決。この五つを順番に聴きながら、少しずつ手の中へ入れていく方法です。
テンションが濁った日も、転回形を間違えた日も、練習が止まったわけではありません。音の重なりを自分の耳で確かめたということです。
まずは、C7の上で左手にミとシ♭、右手にレ・ファ♯・ラを置き、その響きを一小節だけ聴いてみましょう。速く弾けなくても、きれいにつながらなくても、まずはこの1小節だけで十分です。
Related reading: ルートレスヴォイシングのAフォームとBフォーム:音域の響きと連結のスムーズさのどちらを優先すべきか and テンションコードの覚え方:丸暗記と理論計算のどちらが近道か.