
ソロ全体を再生し、何度も巻き戻し、最初の数小節だけで停止する。音は聴こえている。しかし、どの音が拍のどこに置かれ、どのコードに対して何度として機能しているかが分解できない。この状態で曲全体を採譜しようとすると、音高、リズム、アーティキュレーション、コード進行のすべてが同時に処理対象になる。負荷が過大である。
したがって、ジャズピアノの耳コピは1小節、またはさらに短いフレーズ単位に区切る。最初に声で再現し、その後に楽器で音を探す。コードは1拍目のベース音から抽出する。採ったフレーズは度数で分類し、別の調へ移す。
この順序を崩さないことが、耳コピをアドリブへ接続する最低条件である。
なぜ1小節に区切るのか:耳コピの対象を限定する
ジャズのソロには、複数の情報が同時に存在する。
- 音高。どの音を弾いているか。
- リズム。どの拍のどの位置に音があるか。
- 音価。音をどれだけ伸ばしているか。
- アーティキュレーション。アクセント、休符、レガート、発音の強弱。
- 和声。コードに対して何度の音か。
- フレージング。音のまとまりがどこで始まり、どこで終わるか。
これらを一度に処理するために、ソロ全体を繰り返し聴く方法は効率が悪い。全体像を把握する段階では有効だが、正確な再現には向かない。
1小節に区切ると、聴き取りの対象が限定される。音数が少なくなるだけではない。フレーズの開始点と終止点が明確になる。コードが小節ごとに変わる楽曲では、各小節の和声と旋律の関係も整理しやすい。
たとえば、四分の四拍子で1小節に8音がある場合、その8音を一つの流れとして聴く必要はない。まず1拍目だけを確認する。次に2拍目までを確認する。その後、3拍目と4拍目を加える。この操作により、音高の問題とリズムの問題を分離できる。
ここで定義すべきなのは、耳コピの目的である。
原演奏を完全に複製することが目的なら、音高とリズムだけでなく、発音位置、音価、装飾音、ペダル、タッチまで対象になる。アドリブの素材を得ることが目的なら、最初に必要なのはフレーズの骨格である。骨格とは、開始音、主要なコードトーン、クロマチックな経過音、解決先、リズムの型を指す。
この二つを混同すると、最初から情報量が過剰になる。
耳コピは記憶力の競争ではない。音を処理可能な長さに切断する作業である。
1小節をさらに分割する基準
1小節であっても、音数が多い場合は長すぎる。ビバップ系のフレーズでは、1拍の中に複数の音が連続し、タイや休符によって拍節感が曖昧になることもある。
その場合は、次の単位で分ける。
1. 拍単位で切る
まず1拍目から2拍目までを再現する。音符の数ではなく、拍の位置を基準にする。
2. 発音のまとまりで切る
休符の前後、アクセントの位置、同じ方向へ進む音群を一つのフレーズ単位とする。
3. 着地点で切る
コードトーンや次の小節の1拍目に解決する直前までを区切る。ジャズのラインでは、解決音がフレーズの構造を決定する場合が多い。
4. 反復パターンで切る
同じ音型が移動している場合、最初の一つを正確に採り、残りは度数とリズムの反復として確認する。
5. 小節線をまたぐ場合は前後を分ける
小節線を越えるタイは、前の小節の終止と次の小節の開始を混同させる。まず発音位置を採り、その後に音価を確認する。
「1小節」という言葉を固定的な規則として扱う必要はない。目的は、耳が処理できる単位まで情報を減らすことである。半小節でも、2拍でもよい。反対に、音数が少なく構造が明確なら2小節を一単位にしてもよい。
聴き取りの順序:声、リズム、音名、度数
ジャズピアノの耳コピでは、いきなり鍵盤を探さない。先に声でフレーズを再現する。これは補助的な方法ではない。聴覚情報を身体的な運動へ変換するための主要な工程である。
音名が分からなくても、音の上行と下行、音価、休符、アクセントは声で再現できる。声に出せないフレーズは、まだ聴き取れていない。鍵盤を触りながら偶然に音を探す方法では、正しい音高に到達しても、リズムの細部が失われる。
実際の手順
次の順序で処理する。
1. 対象を1小節または短いフレーズに限定する
ループ再生を設定する。最初から曲全体を対象にしない。
2. 旋律を母音や声で口ずさむ
音名を言う必要はない。音の長さ、休符、アクセントを含めて再現する。
3. リズムだけを確認する
旋律を一度無視し、手拍子や発音で拍の位置を確認する。裏拍、シンコペーション、三連符、休符を区別する。
4. 基準音を決める
原曲の調、伴奏、または鍵盤で鳴らした基準音を使う。絶対音感がなくても、基準音との距離は聴き取れる。
5. 鍵盤で音を探す
まずフレーズの開始音と終止音を探す。全音を無秩序に探さない。
6. 音名を記録する
記譜する場合は、音符だけでなくリズムも書く。録音を残してもよい。
7. コードに対する度数へ変換する
音名をそのまま覚えず、ルート、3度、5度、7度、テンション、クロマチックな接近音として分類する。
この工程では、音名の探索よりもリズムの確認を先に行う。ジャズのフレーズは、音の並びだけでは機能しない。同じ音高列でも、拍の位置が変われば別のラインになる。
音名より先にリズムを書く
耳コピで最も見落とされやすいのは、音高ではなくリズムである。
特に、八分音符を均等に並べたつもりのフレーズには問題がある。スウィングの八分音符は、楽譜上で単純な二分割として記述されていても、実際の発音は演奏者、テンポ、フレーズの位置によって変化する。ここで一定の比率を数値として固定すると、原演奏のニュアンスを失う。
最初の段階では、次を優先する。
- 音が鳴る位置。
- 音が切れる位置。
- 裏拍に置かれたアクセント。
- 休符の長さ。
- 小節線をまたぐ音の保持。
- 次のコードへ解決するタイミング。
その後で、音高を当てはめる。リズムを先に固定すれば、音高が不確かな状態でもフレーズの輪郭を保持できる。
反対に、音高だけを正確にしてリズムを曖昧にすると、練習時にフレーズがジャズの文法から外れる。鍵盤上では再現できても、伴奏に対して適切な位置に配置できない。
相対音感でフレーズを採る:絶対音名から距離へ
ジャズの耳コピに絶対音感は必須ではない。必要なのは、基準音に対する相対的な距離を把握する能力である。
たとえば、基準音から短3度上がった音、完全4度下がった音、半音で上から解決する音を認識できれば、調が変わっても同じ構造を再現できる。アドリブで必要なのは、特定の音名を一度だけ思い出すことではない。コードと度数の関係を別のキーで再利用することである。
度数で見るフレーズ
CマイナーのトニックコードをCm7とする。ここで旋律がE♭、G、B♭、Dと進むなら、コードに対する度数は3度、5度、7度、9度である。音名だけで覚えると、別のキーへ移調するたびに音列を再計算する必要がある。
一方、度数で覚えれば、Dm7ではF、A、C、Eとなる。形状は変わるが、機能は同じである。
ただし、度数はコードの種類を前提にする。メジャー7thの3度と、ドミナント7thの3度は同じ長3度でも、コード全体の中での役割が異なる。マイナー7thの3度は短3度である。コード記号を省略して度数だけを記録すると、後で構造を再現できない。
採譜時には、少なくとも次の情報を残す。
- コード記号。
- フレーズの開始拍。
- 開始音の度数。
- 終止音の度数。
- 経過音またはアプローチノートの位置。
- 主要なリズム型。
- 次のコードへ解決する音。
コードトーンとテンションを分ける
音を採った後、すべてを同じ重要度で記憶してはいけない。
ジャズのラインには、コードの骨格を示す音と、骨格の間をつなぐ音がある。前者はコードトーンであり、後者にはテンション、クロマチック・アプローチ、エンクロージャー、経過音が含まれる。
たとえば、G7からCmaj7へ進む場合、G7の3度であるBがCへ半音上行して解決する動きは、和声の方向を明確に示す。BからCという二音だけでも、ドミナントからトニックへの関係が含まれている。
G7上でA、B、C、C♯、D、E♭、Fのように複数の音が使われる場合も、すべてを一つのスケールとして処理する必要はない。まずG7のコードトーンを確認する。G7のコードトーンはルートG、3度B、5度D、♭7度Fの四音であり、この四音が和声の骨格を定義する。残りのA、C、C♯、E♭は、9度、11度、♯11、♭13などとして位置づけられるテンションまたは周辺音となる。Dがテンションではなく5度であることにも注意したい。ここを外すと、G7の和声が単なる音階の響きとして処理されてしまう。重要なのは、音の名称ではなく、解決先との関係である。
この分類を行わずに「G7ではミクソリディアンを弾く」と一括して処理すると、実際のフレーズの動きが失われる。スケールは音の集合を説明するが、ラインの時間的な構造までは説明しない。
採譜した音は、音名の列ではない。コードに対する度数と、解決までの時間構造である。
コード進行を攻略する:1拍目のベース音から構造を抽出する
ジャズピアノの耳コピでは、旋律だけを採ってもアドリブには接続しにくい。コード進行を同時に把握する必要がある。
コードの聴き取りで最初に注目するのは、各小節の1拍目にある低音である。多くの場合、ベース音はルートを示す。ただし、常にルートとは限らない。転回形、ペダルポイント、ウォーキングベース、ルートレス・ヴォイシングでは、低音とコードルートが一致しないことがある。
それでも、最初の抽出対象を低音に置く意味は大きい。和声の候補を限定できるからである。
低音からコード記号へ進む
たとえば、1小節目の低音がD、次の小節がG、次がCである場合、まずD、G、Cという根音の動きを記録する。ここでいきなりDm7、G7、Cmaj7と断定する必要はない。
次に、伴奏と旋律から3度と7度を探す。
- D上でFが聴こえるなら、マイナー系の可能性が高い。
- G上でBとFが聴こえるなら、ドミナント7thの構造が明確になる。
- C上でEとBが聴こえるなら、メジャー7thの可能性が高い。
ここまでの結果は、ルートと3度・7度の組み合わせとして、ローマ数字による和声分析でコードの種類を整理したものである。調の前提が加わって初めて、この列が解釈可能な機能進行となる。Cメジャーを前提とするなら、Dm7–G7–Cmaj7はII–V–Iとして読める。
Fメジャーを前提とする場合、根音の位置はDがVI、GがII、CがVに当たるため、Dm7–G7–Cmaj7はvi7–II7–Vmaj7と整理できる。ただし、FメジャーのダイアトニックなII度は通常Gm7であり、G7の長3度や、Cmaj7のメジャー7thはFメジャーの音階だけからは出てこない。そのため、この進行をFメジャーの中で聴くなら、Cを一時的な到達点として強調する進行、あるいはCメジャーを一時的に主音化した進行として考える方が実際の響きに近い。
つまり、ルート音のD–G–Cという並びだけで、どの調でもII–V–Iと断定することはできない。コードの種類が3度と7度で確定し、調と解決先が定まって初めて、機能進行としての意味が現れる。ジャズのアドリブでは、コード名を個別に覚えるだけでなく、どこへ向かう進行なのかを機能として把握する必要がある。
マイナーII–V–Iなら、たとえばDm7♭5–G7alt–Cm7という構造になる。ここではG7上のテンション選択が変わる。♭9、♯9、♭5、♯5などのオルタード・テンションは、Cマイナーへ解決する方向と関係する。採譜したフレーズにA♭、A♯、D♭、E♭などの音が含まれている場合、単純にGミクソリディアンから外れた音として処理してはいけない。
G7に対して、
- A♭は♭9。
- A♯は♯9として扱える。
- D♭は♭5または♯11。
- E♭は♯5または♭13。
というように、コードに対する度数で位置づける。表記は前後の解決とボイシングによって変わる。重要なのは、同じ音を異なる機能で読める点である。
3度と7度を優先する理由
コードの品質と機能を決める音は、主に3度と7度である。
ルートと5度だけでは、メジャー、マイナー、ドミナントの区別が不十分になる。3度が長3度か短3度かによって、コードの性質が決まる。7度が長7度か短7度かによって、トニック系かドミナント系かの情報が増える。
このため、耳コピの伴奏分析では、低音のルートを仮置きし、3度と7度を探す。テンションはその後でよい。
ピアノの左手ボイシングを聴き取る場合、低音が存在しないこともある。いわゆるルートレス・ヴォイシングでは、左手が3度と7度、場合によってはテンションを配置する。たとえばG7を想定した左手にBとFがあれば、ルートが鳴っていなくてもドミナント機能を推測できる。
このようなヴォイシングでは、最低音だけをルートと判断すると誤る。音の上下関係ではなく、3度と7度の組み合わせからコードを再構成する必要がある。
機能進行として記録する
採譜したコードは、次のように複数の層で記録するとよい。
| 記録する層 | 例 | 役割 |
|---|---|---|
| 実音のルート | D–G–C | ベースの動きを把握する |
| コード記号 | Dm7–G7–Cmaj7 | 和音の種類を記録する |
| 機能とキーの前提 | CメジャーにおけるII–V–I | 他のキーへ移すための構造を得る |
| 主要度数 | 3度・7度の接続 | ボイシングと旋律の骨格を確認する |
| テンション | 9、♭9、♯9、13など | 音色ではなく和声上の位置を記録する |
この表の最下段から始めると、耳コピは不安定になる。まず低音とコードを確定し、機能進行と調の前提を整理し、その後にテンションを追加する。
デジタルツールを使う:速度変更は精度の代替ではない
耳コピ専用のアプリケーションやソフトウェアには、速度変更、区間ループ、波形表示、音源の分離を補助する機能がある。MimicopyやWaveToneのようなツールは、作業単位を限定するために利用できる。
速度を下げる目的は、音を聴きやすくすることだけではない。発音位置を確認することである。
テンポを落とすと、短い装飾音、裏拍のアクセント、タイの終点、コードチェンジ直前のクロマチックな動きが確認しやすくなる。ただし、速度を下げた音源だけで判断すると、元のテンポで生じるフレーズのまとまりを失う。
したがって、次の順序を維持する。
1. 原テンポでフレーズ全体を聴く。
2. 必要な区間だけ速度を落とす。
3. 低速で音高とリズムを確認する。
4. 中間の速度へ戻して再現する。
5. 原テンポで、フレーズの機能を確認する。
速度変更は分析の補助であり、演奏能力の代替ではない。
波形表示を過信しない
波形は音が存在する位置を視覚的に示す。しかし、波形だけで音価や音高を確定することはできない。ジャズピアノでは、ペダル、残響、同時発音、ベースとの干渉によって波形が複雑になる。
波形表示は、次の用途に限定するとよい。
- フレーズの開始位置を探す。
- ループ範囲を正確に設定する。
- 休符の位置を確認する。
- 小節線をまたぐ音の長さを比較する。
- 特定のアタックを見つける。
音高は鍵盤、声、基準音との比較で確認する。画面に現れた形を音符へ直接変換しない。視覚情報は聴覚分析を補助するが、和声機能を説明しない。
採譜は記憶を固定する
採譜には二つの機能がある。一つは、音とリズムを正確に記録すること。もう一つは、原演奏と自分の再現との差を可視化することである。
記譜を行う場合、完成された楽譜を最初から作る必要はない。最初は次のような簡易記録でもよい。
- 小節番号。
- コード記号。
- 音の開始位置。
- 音名。
- 主要な音価。
- フレーズの終止音。
- 不確かな箇所の印。
不確かな音を無理に確定しない。候補を残し、次のコードとの関係から再検討する。採譜では、一音の誤りよりも、誤った音を確定事項として記憶することの方が問題になる。
また、市販のコピー譜や自動採譜の結果をそのまま原演奏と同一視してはいけない。記譜上の省略、音価の整理、装飾音の未記載は起こり得る。最終的な基準は音源である。
採ったフレーズをアドリブへ変換する
耳コピの失敗は、採譜したフレーズをそのまま暗記して終わることである。
一度弾けるようになっただけでは、アドリブの材料にならない。フレーズを異なるキー、異なるコード配置、異なるリズムへ移せる状態にする必要がある。
まず開始音の度数を確認する
フレーズを採ったら、最初の音がコードに対して何度なのかを確認する。
開始音がルートなのか、3度なのか、5度なのか、7度なのか、テンションなのかによって、フレーズの性質は変わる。特にジャズの定型句では、コードトーンへ半音で接近する音から始まることが多い。開始音だけをスケールの一音として覚えると、フレーズの方向を失う。
たとえば、G7上でA♭からGへ進むなら、A♭はGの上方からのクロマチック・アプローチとして機能する。G7の♭9を長く保持するフレーズとは異なる。音名が同じでも、音価と解決位置が変われば意味は変わる。
次に、終止音を確認する。終止音が次のコードの3度や7度へ解決している場合、フレーズの中心は開始音ではなく、解決音にある可能性が高い。
移調の順序
移調は、すべてのキーを無秩序に回す作業ではない。構造を保ったまま、音の関係を再現する作業である。
1. 原曲のキーで音名とリズムを固定する
まず原演奏と同じコード進行で再現する。
2. 半音上または下へ移す
鍵盤上の距離ではなく、度数が保持されているか確認する。
3. 五度進行で移す
II–V–Iのような機能進行は、五度関係で移動すると構造を保ちやすい。
4. 複数の調でコード進行に適用する
同じフレーズがメジャー、マイナー、ドミナントのどこに適合するかを確認する。
5. 開始音を変えて再構成する
同じリズム型を使い、3度開始、7度開始、テンション開始の形を作る。
移調後に指使いだけが変わり、度数が曖昧になっている場合は失敗である。鍵盤上の形状ではなく、コードとの距離を保つ。
フレーズを種類別に分類する
フレーズのストックは、曲名や演奏者名だけで分類すると使いにくい。次のような機能別分類が必要である。
- メジャーII–V–Iのドミナント処理。
- マイナーII–V–Iのオルタード・テンション。
- ドミナント7thからトニックへの解決。
- メジャー7th上の3度、5度、6度を中心にしたライン。
- マイナー7th上の9度と11度を含むライン。
- ブルーノートを含む短い応答句。
- 半音上または下からコードトーンへ接近するライン。
- 同じリズムを度数ごとに移動させるパターン。
- 小節末から次の小節の1拍目へつなぐアプローチ。
ここで、フレーズ集のように完成形だけを大量に並べる必要はない。重要なのは、コード進行に対する適用条件を記録することである。
たとえば、「G7で使えるフレーズ」とだけ書くと、Cへ解決するG7なのか、Cmへ解決するG7なのかが不明になる。次のように記録する。
- 対象:G7–Cmaj7。
- 開始:G7の♭9。
- 骨格:3度から♭7度へ下降。
- 経過:半音接近。
- 解決:Cmaj7の3度。
- 用途:メジャー・トニックへの解決。
- リズム:裏拍開始、次小節1拍目へ着地。
この記録なら、キーが変わっても利用できる。
音源からフレーズの文法を読む
ジャズのトランスクリプションでは、音を採ることと、演奏の文法を読むことを分けて考える必要がある。
同じコード進行に対して、演奏者が毎回異なる音を弾いているように聴こえても、実際には共通する骨格がある場合が多い。3度と7度の接続、半音による接近、拍の後ろへ置かれた発音、特定のリズムセルなどである。
一つのフレーズを採った後、同じソロ内で似た構造が別の場所に現れていないか確認する。完全に同じ音列である必要はない。開始音が変わっていても、リズムと着地点が共通していれば、同じ文法として分類できる。
リズムセルを抽出する
アドリブでは、音高より先にリズムが反復されることがある。
たとえば、裏拍から始まり、三連符を経由して次の小節の1拍目へ着地するパターンがある。このリズムに別の度数を当てはめれば、同じフレーズをそのまま複製せずに応用できる。
リズムセルを抽出する場合、次を記録する。
- 開始位置。
- 音数。
- 休符の位置。
- 最も長い音の位置。
- 小節線との関係。
- 解決音の位置。
この分析を行うと、アドリブが音階練習の連続ではないことが明確になる。スケールは音高の材料であり、リズムセルは時間の構造である。両者を組み合わせて初めてラインになる。
ブルーノートを単独の音階にしない
ブルーノート・スケールは、ジャズの語彙を整理する上で有効である。ただし、音階を上下するだけではフレーズにならない。
Cを中心とするブルーノートの扱いでは、E♭、G♭、B♭などの音が現れる。これらは常に同じ機能で使われるわけではない。E♭は短3度として使われる場合もあれば、Eへ半音で接近する音として使われる場合もある。G♭は経過音やブルーノートとして現れ、長3度や5度への動きを形成する。
したがって、ブルーノート・スケールを覚える際も、音階の構成音だけを記憶しない。どの音へ解決するか、どの拍に置くか、どの音価で発音されるかを採る必要がある。
ビバップ・スケールを機能で扱う
ビバップ・スケールには、コードトーンが強拍に配置されるように補助音を加える考え方がある。しかし、実際の演奏では、スケールを上行・下行するだけでコード感が生まれるわけではない。
強拍に3度、7度、ルートなどの主要音が置かれているかを確認する。装飾音が増えていても、骨格の音が拍の構造を支えていれば、ラインは和声に接続する。
耳コピでは、まず主要音だけを抜き出す。次に補助音を戻す。
たとえば8音のラインを採ったとき、1音目、3音目、5音目、8音目がコードトーンであれば、その4音を骨格として弾く。その後で、間にある音を加える。これにより、フレーズの形を保ったまま、音数を減らして練習できる。
練習で起こる誤り:正確さの方向を間違えない
耳コピで挫折する原因は、聴力の不足だけではない。作業手順が不適切である場合が多い。
ソロを丸ごと採ろうとする
ソロ全体を一度に採ろうとすると、完成する前に情報が混線する。これはソロ全体に価値がないという意味ではない。全体の構成を聴く段階と、細部を採譜する段階を分ける必要がある。
最初は1小節、または短いフレーズを完成させる。そのフレーズがコード上で機能することを確認してから、次へ進む。採った数ではなく、再利用できる数を基準にする。
鍵盤で音を総当たりする
鍵盤を押しながら音を探すと、偶然正解することはある。しかし、音の距離を聴く能力は育ちにくい。
先に声でフレーズを再現し、開始音と終止音の候補を絞る。基準音との関係を確認する。鍵盤は答えを探す場所であり、聴き取りを放棄する場所ではない。
音名だけを書き残す
C–E♭–G–B♭という音名の列だけでは、コードが変わったときに再利用できない。Cマイナー7th上の1度、短3度、5度、短7度なのか、別のコード上のテンションなのかを記録する必要がある。
音名は原曲の再現に必要である。度数は応用に必要である。両方を残す。
低速再生だけで練習する
低速再生は音を確認するために使う。演奏の完成は原テンポで行う。
速度を落とした状態では、指が音を追いやすくなる。その結果、音と音の間隔、発音の位置、アクセントが変質することがある。低速で採った後は、段階的に元のテンポへ戻す。最終的にコード進行の中で機能するかを確認する。
採ったフレーズを無関係な場所で使う
フレーズは万能ではない。メジャー・トニックへ解決するラインを、マイナー・トニックへそのまま置けば、テンションの衝突が起こる場合がある。G7♭9からCmへ解決するラインと、G7からCmaj7へ解決するラインでは、選択されるテンションの意味が異なる。
フレーズを保管するときは、曲名だけでなく、次の条件を添える。
- コードの種類。
- 解決先。
- 開始音の度数。
- 終止音の度数。
- 使用するテンション。
- メジャーかマイナーか。
- フレーズの開始位置。
これで、ストックが実際のアドリブ素材になる。
1小節の耳コピを毎日の練習へ組み込む
耳コピは、長時間の集中を前提にしなくても成立する。1小節を完全に処理するには、音源の選択、区間設定、声での再現、鍵盤での確認、度数分析、移調が必要である。これを一つの作業として扱う。
一つの練習単位では、次の順序が安定する。
1. 音源を全体で聴く
フレーズがコード進行のどこにあるかを確認する。
2. 対象を1小節に限定する
前後の小節を含める場合も、中心は一つの小節に置く。
3. 声でリズムと音の動きを再現する
音名が不明でも止めない。まず輪郭を確定する。
4. 鍵盤で開始音を探す
基準音からの距離を確認する。
5. 順番に音を確定する
先に弾いた音へ次の音を接続する。全音を同時に推測しない。
6. コードのルート、3度、7度を確認する
旋律の音を度数へ変換する。
7. 原テンポで再現する
低速で作った形が元のリズムに戻るか確認する。
8. 別のキーへ移調する
少なくとも一つの別キーで、度数の構造を保つ。
9. 同じ進行の別箇所へ適用する
フレーズの開始位置や終止音を変えずに試す。
10. 分類して記録する
メジャーII–V–I、マイナーII–V–I、ドミナント解決などに分ける。
この方法では、1小節が練習の最小単位になる。最小単位であるため、曖昧な部分を放置しにくい。採ったフレーズが再現できない場合、問題が音高なのか、リズムなのか、運指なのか、コード理解なのかを分離できる。
最後に残すべきヴォイシングとフレーズの型
耳コピしたフレーズを使うとき、左手のヴォイシングが不安定だと、旋律の機能を判断しにくい。最低限、コードの3度と7度を含む形を用意する。ルートをベースに任せられる場合は、ルートレスの配置でよい。
代表的な考え方は次の通りである。
メジャーII–V–I
- IIマイナー7th:3度と7度を中心に置く。
- Vドミナント7th:3度と7度を半音または全音で接続する。
- Iメジャー7th:3度、7度、9度を必要に応じて配置する。
旋律がコードトーンへ解決するように、左手の3度と7度を固定する。テンションを追加するのは、その後でよい。
マイナーII–V–I
- IIハーフ・ディミニッシュ:短3度と短7度を確認する。
- Vドミナント7th:♭9、♯9、♭5、♯5の選択を解決先から判断する。
- Iマイナー:短3度、短7度、9度、6度またはメジャー7thの扱いを曲の和声に合わせる。
マイナー・トニックがCm7なのか、CmMaj7なのかで、B♭とBの扱いが変わる。コード記号の違いを曖昧にしない。
ドミナントからの解決
- 3度からトニックのルートまたは3度へ進む。
- 7度からトニックの3度へ進む。
- ♭9からトニックの5度または3度へ進む。
- ♯9から短3度または長3度への接続を確認する。
- 半音上または下から主要コードトーンへ接近する。
ここでの目的は、特定のヴォイシングを固定することではない。コードの機能が聴こえる配置を複数持つことである。
フレーズも同様である。最終的には、次のような代替パターンを準備する。
- 同じリズムで開始音だけを3度へ変更する。
- 終止音を7度から3度へ変更する。
- ドミナントのテンションをナチュラル9度から♭9へ変更する。
- クロマチック・アプローチを上方から下方へ反転する。
- 1小節目の後半から開始し、次の小節の1拍目へ解決する。
- 同じ度数構造を別のキーへ移す。
- メジャー解決用のラインをマイナー解決用に変換する。
これらは、フレーズを暗記したまま使う方法ではない。構造を保存し、条件を変えて再構成する方法である。
ジャズピアノの耳コピで最初に必要なのは、音を大量に集めることではない。1小節の中で、どの音が強拍にあり、どの音がコードトーンで、どこへ解決しているかを確定することである。
絶対音感がなくても、基準音との距離、コードに対する度数、リズムの位置を処理できれば、耳コピは成立する。声で再現し、鍵盤で探し、採譜し、度数へ変換する。次に移調し、分類し、別のコード進行へ適用する。
この工程を守れば、耳コピは収集ではなく分析になる。分析されたフレーズだけが、アドリブで再利用できる。
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