
原因は、ブルーノートスケールの使用そのものではない。ピアノの固定された音高と、G♭という♭5度の扱いにある。ピアノは管楽器や声のように、音程を連続的に下げたり上げたりできない。12平均律上のG♭は、Cに対して減5度として発音される。したがって、音程の揺れを含むブルーノートを、固定された一音として長く保持すると、音の変化ではなく濁りだけが残りやすい。
ブルーノートスケールは、弾けば自動的にジャズのアドリブになる音階ではない。構成音の度数、配置、音価、解決先を管理して初めて機能する。特に♭5度は、安定音ではなく経過音として定義した方が扱いやすい。
ピアノという楽器の制約:なぜブルーノートが濁って聴こえるのか
ブルーノートの中心的な音は、一般に♭3度、♭5度、♭7度である。Cを主音とする場合、E♭、G♭、B♭が該当する。
ただし、この三つを同じ方法で扱うことはできない。
E♭は、Cに対する短3度である。C7上では、コードの長3度であるEとの対立を生む。ただし、その対立はブルースの文脈では比較的管理しやすい。E♭からEへ移動させれば、短3度から長3度への半音進行が成立する。E♭を短く置けば、緊張として認識される。
B♭はC7の♭7度であり、コード構成音そのものである。C7上では安定度が高い。B♭を長く保持しても、少なくとも和声音との衝突は発生しにくい。
G♭は異なる。Cに対する♭5度であり、C7の構成音ではない。さらに、左手でGやG♭を含むヴォイシングを鳴らしている場合、右手のG♭との音域接近によって濁りが増幅される。G♭は緊張度が高く、解決先を要求する音である。
ここで、ピアノの音高が固定されているという条件が加わる。管楽器では、♭3度を長3度より低い位置から滑らせたり、♭5度を4度と5度の中間に置いたりできる。声も同じように、純粋な12平均律の位置から微細にずれる。ブルーノートの実際の音響は、記譜上の♭3度や♭5度と完全には一致しない。
しかし、ピアノのG♭はG♭としてしか鳴らない。鍵盤を押したまま、音程を少し下げたり上げたりすることはできない。演奏者が意図した音程の揺れではなく、Gとの半音衝突、あるいはCとの減5度関係が前面に出る。
ピアノでブルーノートを再現する場合、音高を曲げるのではなく、音価と解決先を設計する。
この制約は欠点ではない。ピアノでは、微分音程の代わりに別のパラメーターを操作する。主な操作対象は次の四つである。
- ♭3度や♭5度の音価を短くする。
- 装飾音として、直前または直後の音へ接続する。
- ♭5度を4度または5度へ解決する。
- 左手コードと右手の緊張音を別の音域に配置する。
ブルーノートスケールの違和感を解決する作業は、スケールを別のものに交換することではない。固定された音高のまま、緊張音が発音される条件を変更する作業である。
マイナー・ブルース・スケールの構造と♭5度が持つ緊張感
最も一般的なマイナー・ブルース・スケールは、マイナー・ペンタトニックに♭5度を加えた6音構成である。
Cを主音とする場合は次の通りである。
| 度数 | 音名 | 機能の基準 |
|---|---|---|
| 1度 | C | 主音。フレーズの終止点になりやすい |
| ♭3度 | E♭ | 短3度。Eへの半音進行を形成する |
| 4度 | F | 進行音。♭5度の解決先になる |
| ♭5度 | G♭ | 緊張度の高い経過音 |
| 5度 | G | 完全5度。♭5度からの半音上行先 |
| ♭7度 | B♭ | 7度音。C7上では和声音 |
この6音を音階として上下行するだけでは、♭5度の機能が曖昧になる。C、E♭、F、G♭、G、B♭という順序は、構造を示すためには有効だが、フレーズとしては単純すぎる。
実際のアドリブでは、♭5度を独立した着地点ではなく、4度と5度の間に置かれた接続音として処理する方が明確である。代表的な動きは次の三つだ。
1. 4度―♭5度―5度
F―G♭―G。G♭を上下の基準音に挟み、音価を短くする。
2. 5度―♭5度―4度
G―G♭―F。半音下行によって、G♭を4度へ収束させる。
3. ♭3度―3度
E♭―E。マイナー・ブルースの短3度を、ドミナントコードの長3度へ移行させる。
三つ目は、ブルーノートの処理として特に重要である。C7上でE♭を長く保持すると、左手のE、あるいは右手のコード構成音との対立が発生する。しかし、E♭を短く置いてEへ移動すれば、♭3度は緊張音として機能する。音の価値は、音程の名称だけでは決まらない。どの音へ向かうかで決まる。
♭5度を長く伸ばしてはいけないのか
常に短くしなければならないわけではない。♭5度を長く保持する奏法も成立する。ただし、その場合は周囲の和声と音域を制御する必要がある。
C7上でG♭を保持すると、Cとの間に減5度、Gとの間に半音、コードの3度Eとの間にも緊張関係が生まれる。複数の衝突が同時に存在するため、解決を伴わない保持では濁りとして認識されやすい。
一方、左手がルートを省略したヴォイシングで、上声部にEやGを置かず、右手のG♭を高音域で発音すれば、濁りの密度は下がる。これはG♭の機能が変わったのではない。衝突する周波数帯が分離されたのである。
♭5度の長い音価が成立しやすい条件は、次のように考えられる。
- 左手がGまたはEを、右手と近い音域で鳴らしていない。
- G♭がフレーズ全体の終止点になっていない。
- 次の和声、または次の旋律音によって解決方向が示されている。
- 音量がコード全体を支配しすぎていない。
- 直前または直後に4度、5度、長3度などの基準音が存在する。
この条件を満たさない場合、G♭は経過音に戻した方がよい。
「しゃくり」を再現する装飾音とクラッシュ・ノート奏法
ピアノにはピッチベンドがない。したがって、管楽器や声の「しゃくり」をそのまま移植することはできない。代わりに使えるのが、短い前打音、隣接音の重なり、半音進行である。
前打音による♭3度の処理
C7上でE♭からEへ進む場合、E♭を均等な長さで発音しない。E♭を装飾音として置き、Eを主たる音価にする。
- E♭:短い前打音
- E:長い着地点
このとき、E♭は旋律の目的地ではない。Eへ向かうための入口である。譜面上の音数が同じでも、音価の比率が変われば機能は変わる。
逆に、Eを主たる音価にしてE♭を後置すると、長3度から短3度へ下がる動きになる。これは別の表情を持つ。ドミナント上でブルーノートを処理する場合、E♭からEへの上行の方が、コードの性質を明確にしやすい。
♭5度を装飾音にする
G♭は、FとGの間に配置する。基本となるのは次の二つだ。
- F―G♭―G
- G―G♭―F
前者は半音上行による5度への収束、後者は半音下行による4度への収束である。どちらも、G♭を長く保たない。重要なのはG♭を独立した和声音にすることではなく、4度と5度の間に半音の摩擦を作ることだ。
4度または5度を主たる音価とし、♭5度を短くする。具体的な長さを固定する必要はない。テンポ、アーティキュレーション、前後の音数によって変化する。ただし、三音を同じ長さで並べると、音階練習の印象が強くなり、G♭の方向性が失われやすい。
クラッシュ・ノート奏法の原理
クラッシュ・ノートは、♭3度と3度など、隣接する音を短時間同時に発音する方法である。C7上ならE♭とEを同時に押さえる。これは和音として安定させるためではない。二つの音の衝突を一時的に作り、片方を解放するための操作である。
手順は単純だ。
1. E♭とEを同時に発音する。
2. 短時間でE♭を離す。
3. Eを残す、または次の音へ進む。
この技法では、二音を同じ強さで長く鳴らしてはいけない。両方が同じ音価で残れば、短3度と長3度の衝突が固定される。目的は濁った和音を作ることではなく、濁りを通過させることにある。
同じ原理はG♭とGにも適用できる。G♭とGを同時に発音し、Gを残す。あるいはGを先に発音してからG♭を短く差し込む。後者では、基準音を維持したまま、♭5度による摩擦を追加できる。
左手コードが密な場合、クラッシュ・ノートの効果は過剰になる。特に左手がE、B♭、Dを含むC7系のヴォイシングを中音域で弾いていると、右手のE♭とEの同時発音によって複数の半音衝突が生まれる。そこで右手を高音域へ移し、左手の上声部との距離を取る。問題は音程だけではなく、配置にもある。
♭5度を解決させるボイスリーディングの技術
ブルーノートスケールをジャズアドリブに組み込むには、スケールの全音を均等に使うより、コード進行の中で各音がどこへ向かうかを決める必要がある。
C7からF7へ進むブルース進行を考える。C7上のG♭は、C7の構成音ではない。しかし、G♭からFへ半音下行させれば、次のコードの主音であるFに接続できる。ここではG♭が、C7内部のブルーノートであると同時に、F7への導音のような役割を持つ。
同じG♭をGへ上行させれば、C7の5度に着地する。こちらはコード内部で完結する解決である。
| 出発音 | 解決音 | 度数の動き | 用途 |
|---|---|---|---|
| G♭ | F | ♭5度→4度 | 下行による収束。次のF系和声へ接続しやすい |
| G♭ | G | ♭5度→5度 | 上行による収束。C7内部で完結する |
| E♭ | E | ♭3度→3度 | 短3度から長3度への解決 |
| B♭ | A | ♭7度→6度 | コード外へ向かう下行ラインを形成する |
| G♭ | E | ♭5度→3度 | 直接解決。前後音の設計が必要 |
最後のG♭からEへの移動は、半音進行ではない。G♭の緊張を、コードの長3度へ直接移す。距離があるため、単独で使うと輪郭が弱くなる場合がある。G♭の前にF、後ろにEを置けば、F―G♭―Eという短い線が形成される。G♭は上行と下行の両方に関与し、単なる誤音ではなく、旋律線の屈曲点になる。
コード進行の中で音を定義する
ブルーノートスケールを一つのコードに固定して使う場合でも、コード進行は常に背景にある。例えば、次のような進行を考える。
- C7
- F7
- C7
- G7―F7―C7
C7上のG♭を、毎回Gへ解決する必要はない。1小節目ではGへ、2小節目ではFへ、最後の進行ではF7上のE♭やCへ接続できる。音の意味は、スケール名ではなく、現在のコードと次のコードの関係によって決まる。
C7上のE♭も同じである。E♭からEへ進めば、C7の3度へ収束する。E♭からFへ進めば、4度へ移動する。E♭からB♭へ進めば、♭7度へ移動する。どの方向も成立するが、同じ緊張度ではない。
このため、ジャズピアノのブルーノートの弾き方を単純な指使いとして覚えると、アドリブで機能しにくい。必要なのは音階そのものではなく、短い音列の内部にある解決方向を記憶することだ。
フレーズは三音単位で練習する
ブルーノートの練習では、6音を上行・下行するだけでは不十分である。まず三音の組み合わせに分解する。
- 1度―♭3度―4度
- ♭3度―4度―♭5度
- 4度―♭5度―5度
- ♭5度―5度―♭7度
- 5度―♭3度―1度
- ♭7度―5度―♭5度
この中で、♭5度を含む三音は最後の音を必ず確認する。G♭で終わる場合、その音が着地点なのか、次の小節へ持ち越すのかを決める。決めずに演奏すると、フレーズ末尾の濁りとして残る。
練習は次の順序で行う。
1. まず右手だけで三音の輪郭を弾く。
2. ♭3度または♭5度を短くし、解決音を長くする。
3. 同じ音列を逆方向に弾く。
4. C7、F7、G7の各コードで度数を移調する。
5. 左手のヴォイシングを加え、濁りが発生する音域を確認する。
ここで移調を省略すると、Cの位置関係だけを指の形として記憶してしまう。ブルーノートは度数によって機能する。鍵盤上の距離だけを再現しても、コードとの関係は再現されない。
左手コードとの干渉を防ぐ音域と配置
ブルーノートスケールの違和感は、右手の単音だけで発生するとは限らない。左手コードの配置が、右手の♭3度や♭5度を過剰に強調している場合も多い。
C7上で左手がC―G―B♭―Eを密集配置し、右手がG♭を中音域で保持すると、GとG♭、EとG♭、CとG♭の関係が近い位置で発音される。これは単に不協和音が多いという話ではない。近接した周波数帯に複数の緊張関係が重なるため、各音の役割が分離されないのである。
左手の基本的な選択肢は三つある。
ルートを含む左手ヴォイシング
ルートを含む形は、調性を明確にする。C7ならCを低音に置き、E、B♭、必要に応じてDやAを加える。
この形では、右手のG♭がCとの減5度として強く認識される。ブルーノートを短く使う場合には問題が少ない。G♭を長く保持する場合は、左手のGを省略した方が濁りを抑えられる。
例えば、左手をC―B♭―Eとする。ここではGを外す。右手がG♭からGへ進む場合、Gの到達点が明確になる。
一方、左手がGをすでに鳴らしていると、右手のG♭は到達前から半音衝突を起こす。左手のGと右手のG♭が近い音域で同時に響けば、右手がGへ解決する前から、二つの音が一つの濁った塊として聞こえやすい。ここで問題なのは、抽象的な色名や曖昧な記号ではなく、左手のGと右手のG♭という具体的な音名の関係である。
ルートレス・ヴォイシング
ルートレス・ヴォイシングでは、3度と7度を中心にコードの性質を示す。C7ならEとB♭が基本である。9度のDや13度のAを加えれば、より広い配置になる。
右手でブルーノートを弾く場合、左手をルートレスにすると低音域の密度が減る。特にG♭を短い経過音として扱うと、左手のEとB♭がコードの基準を維持し、右手の緊張音が一時的な変化として認識されやすい。
ただし、左手にE、B♭、D、Aを近接配置すると、右手のE♭やG♭との衝突は残る。ルートレスだから安全なのではない。音の選択と音域の分離が必要である。
3度を避けるヴォイシング
ブルーノートを前面に出す場合、左手の3度を一時的に省略する方法もある。C7のEが左手にあると、右手のE♭との半音衝突が明確になる。これは意図的に使えば有効だが、長く保持すると♭3度の濁りを固定する。
左手をC―B♭、またはC―D―B♭のように構成し、右手のE♭―Eを旋律として扱う。これにより、コードの3度を右手の解決音へ移動できる。和声の情報を左手から右手へ分担させる配置である。
音域の分離
同じ音程関係でも、音域が変われば知覚される密度は変化する。左手のコードを低音域、右手のブルーノートを中高音域に置く。右手のG♭を左手のGのすぐ上に置かない。まず試すべきなのは、この単純な原則である。
特に注意が必要なのは次の組み合わせだ。
- 左手のGと右手のG♭
- 左手のEと右手のE♭
- 左手のCと右手のG♭
- 左手のB♭と右手のA、またはA♭
- 左手のテンションと右手の同度、または半音上のブルーノート
これらはすべて禁止されるわけではない。短い発音、アクセント、装飾音としては機能する。ただし、長いパッドのように保持するコードと、短いアタックを持つブルーノートでは役割が異なる。両者を同じ音価で扱うと、緊張と解決の差が消える。
メジャー・コード上でのブルーノート
ブルーノートスケールは、マイナー・ブルースの内部だけで使われるものではない。C7のようなドミナントコード上で、Cマイナー・ブルース・スケールを使う場面は多い。
ここで注意すべきなのは、スケールの主音がCであっても、コードの性質はCマイナーではないという点だ。C7は長3度Eを含む。したがって、Cマイナー・ブルース・スケールのE♭は、コードの長3度と対立する。
この対立を問題として排除する必要はない。E♭をEへ解決すれば、コードの性質を明確にできる。逆に、E♭をフレーズの長い着地点にすると、C7の長3度が曖昧になる。
同じ構造はG♭にもある。C7に対してG♭は♭5度であり、Gは5度である。この二つを隣接させることで、ブルース特有の半音進行を形成できる。E♭とG♭をコードの否定として扱う必要はない。これらは、コードトーンへ接続するための変位音である。
E♭とEを同時に弾く場合
E♭とEの同時発音は、C7上で典型的なクラッシュを作る。短時間なら、♭3度から3度への移行を強調できる。しかし、左手でEをすでに鳴らしている場合、右手のE♭だけが追加されるため、衝突が強くなる。
この場合は、次のような配置が使える。
- 左手でEを鳴らし、右手のE♭を高音域で短く置く。
- 左手からEを外し、右手でE♭―Eを処理する。
- E♭を弱い拍に置き、Eを強い拍に置く。
- E♭を前打音にし、Eを拍の中心に置く。
拍の位置も機能を変える。強拍に置かれたE♭は、コードとの衝突として明確になる。弱拍に置かれたE♭は、経過音として処理されやすい。特定の音を避けるのではなく、発音条件を管理することが重要である。
G♭とGを同時に弾く場合
G♭とGのクラッシュは、♭5度から5度への解決を示す。音域を近づけすぎると、二音が一つの濁った塊として認識される。片方を短くし、もう片方を残す必要がある。
上声部のGを残す場合、G♭を下から差し込む。Gをすでに鳴らしておき、G♭を短く追加してから離す。この順序では、基準音が維持されるため、G♭の機能が明確になる。
G♭を先に弾いてGへ進む場合は、解決の方向がより直接的になる。どちらを選ぶかは、フレーズの開始点とリズムによって決めればよい。
ブルーノートスケールをアドリブへ組み込む方法
アドリブで音が濁る原因は、スケールを最初から最後まで均等に弾くことにある。音階は素材であって、フレーズではない。素材をコード進行に接続するには、終止音と経過音を分ける必要がある。
まず、1度、4度、5度、♭7度を基準音として設定する。これらはC7上で比較的機能を定義しやすい。次に、♭3度と♭5度を基準音の周囲に配置する。
例えば、C7上では次のように分類できる。
- 基準音:1度、5度、♭7度
- 条件付きの安定音:4度
- 解決を要求する変位音:♭3度、♭5度
- コードの性質を確定する音:3度
この分類は絶対的なものではない。4度は長く保持すればサスペンションとして機能し、3度は左手との配置によって濁りを作る。しかし、アドリブの初期設計では、音の役割を仮に分けておく方が制御しやすい。
二拍単位で設計する
ブルース進行上のアドリブでは、1小節全体を一気に作るより、二拍単位で音列を設計する方がよい。
例として、C7上の二拍を次のように分解する。
- 1拍目:E♭―E
- 2拍目:G♭―G
ここでは二つの変位音が、それぞれコードトーンまたは基準音へ解決する。E♭とG♭を長く保持しないため、音の濁りは方向性に変換される。
別の形では、次のようになる。
- 1拍目:B♭―G
- 2拍目:F―G♭―G
B♭からGへ下行し、FからGへ向かう途中にG♭を挿入する。G♭が主役なのではない。FとGの距離を半音単位で分割する役割を持つ。
休符を含める
ブルーノートは、発音数を増やすほど機能するわけではない。♭3度と♭5度を連続して使う場合、間に休符を置くことで解決音の輪郭が明確になる。
例えば、E♭を短く発音して休符を置き、次の拍でEを弾く。音が連続していなくても、耳はE♭からEへの関係を認識する。逆に、すべての音を連打すると、解決先が埋もれる。
休符は空白ではない。前の緊張音を次の音へ接続するための時間である。これは感覚論ではなく、音価の設計である。
同じフレーズをコードごとに移動する
C7上で機能したE♭―E、F―G♭―Gという音列を、F7へ移動する。Fを主音とする場合、構成音はF、A♭、B♭、C♭、C、E♭である。ピアノ上ではC♭をBとして扱う場面もあるが、ここでは度数の機能を優先する。
実際の演奏では、キー表記と音名表記が一致しないことがある。重要なのは、1度、♭3度、4度、♭5度、5度、♭7度の関係である。
この移調を行うと、指の形ではなく度数でフレーズを認識できる。採譜した音名をそのまま暗記するだけでは、応用範囲が狭い。フレーズを度数へ変換し、各コード上で再配置する必要がある。
ブルーノートを練習する際の誤り
音階を往復するだけ
C、E♭、F、G♭、G、B♭を上行し、下行する。これは運指の確認にはなる。しかし、♭5度の解決方向は含まれていない。音階練習を、そのままアドリブと定義してはいけない。
音階を弾く場合でも、目的を限定する。
- G♭をGへ解決する。
- G♭をFへ解決する。
- E♭をEへ解決する。
- 最後を1度または♭7度で終える。
- 同じ音列を異なるリズムで弾く。
♭5度を強拍の終止音にする
♭5度を強拍の最後に置くと、それ自体が終止音として聞こえる。次の小節で解決するなら成立する。しかし、フレーズがそこで終わる場合、濁りが未処理のまま残る。
意図的に未解決を作る場合を除き、♭5度の後ろに4度または5度を置く。終止音をG♭からGへ変更するだけでも、フレーズの輪郭は変わる。
左手と右手で同じ緊張を重ねる
左手がGを鳴らしている状態で、右手がG♭を長く保持する。左手がEを鳴らしている状態で、右手がE♭を連続して弾く。これらはクラッシュとして短く使うなら有効だが、伴奏と旋律の両方で緊張を固定すると、解決音の優先順位がなくなる。
左手のコードを変えられない場合は、右手の音域を上げる。右手の音域を変えられない場合は、左手から衝突する音を外す。どちらかを変更すればよい。
ブルーノートをすべて同じ強さで弾く
♭3度、♭5度、♭7度は、同じ種類のブルーノートではない。♭7度はC7のコードトーンであり、♭3度と♭5度は変位音である。三つを同じアクセントで並べると、和声上の役割が曖昧になる。
アクセントを付ける場合も、解決音を主たる音価にする。E♭を強く弾いてEを弱くするのではなく、E♭を発音の起点とし、Eに重心を置く。この差は小さく見えるが、ブルーノートの聴感を決める。
代替できるヴォイシングと実践パターン
最後に、左手コードと右手のブルーノートを組み合わせる際の基本形を、C7を基準に整理する。
パターン1:左手のGを外す
左手をC―B♭―Eとする。右手でF―G♭―Gを弾く。
G♭とGの衝突を右手内で完結させる形である。左手にGがないため、G♭の経過が明確になる。Gへ解決した後は、B♭またはEへ進める。
パターン2:左手を3度と7度に限定する
左手をE―B♭とする。右手でE♭―E、G♭―Gを処理する。
コードの性質は左手のEとB♭が示す。右手は変位音と解決音を担当する。E♭のクラッシュを使う場合、左手のEとの距離を確保する。
パターン3:左手から3度を外し、右手で解決する
左手をC―B♭とする。右手でE♭―Eを弾く。
この場合、Eは右手で初めて提示される。E♭はコードの外から入る音ではなく、Eへ向かう装飾音として認識される。右手の旋律が和声の一部を担う形である。
パターン4:♭5度を4度へ下行させる
左手をルートレスのE―B♭―Dとする。右手でG―G♭―Fを弾く。
Gは5度、G♭は♭5度、Fは4度である。G♭は上下の基準音の間に置かれ、最後にFへ解決する。左手のDは9度にあたるため、右手のFとの距離が近い場合は音域を分ける。
パターン5:♭5度を5度へ上行させる
左手をC―B♭とする。右手でF―G♭―G―B♭と進む。
4度から♭5度、5度、♭7度へ進む。G♭の音価を短くし、GとB♭を長くする。音階の一部ではあるが、緊張音の処理が含まれているため、フレーズとして成立する。
パターン6:ブルーノートを後置する
右手でEを保持し、その直前または直後にE♭を短く差し込む。左手はC―B♭を弾く。
Eを基準音として維持したまま、E♭を追加する。前打音とは異なり、基準音の存在が先にあるため、E♭の濁りが短い変化として扱われやすい。
パターン7:高音域にブルーノートを置く
左手でC7のルートレス・ヴォイシングを維持し、右手を中高音域へ移動する。右手のE♭―E、F―G♭―Gを、左手の上声部と重ならない位置で発音する。
この方法は、音程関係を変えずに音響密度を変更する。低音域の密集を避けるだけで、同じブルーノートスケールが明確に聞こえる場合がある。
ブルーノートの濁りを練習で解決する
練習では、まず左手を外して右手の音価だけを確認する。C7を想定し、E♭―E、F―G♭―G、G―G♭―Fをそれぞれ弾く。最初から速く弾く必要はない。どの音に重心があるのか、G♭がどの時点で濁りとして残るのかを耳で確認する。
次に、左手を一音ずつ加える。Cだけを置いた状態、C―B♭、C―B♭―E、C―G―B♭―Eという順に密度を増やしていく。右手の同じフレーズでも、左手の音が変われば濁りの聞こえ方は変化する。
この順番を守ると、原因を右手のスケールだけに押し付けずに済む。G♭が悪いのではなく、G♭をどの音域で、どの音価で、どのコードと重ねたかが問題だからだ。
最後に、次の三点を別々に変えてみる。
- G♭の音価だけを短くする。
- G♭を同じ音域のGではなく、高いGへ解決する。
- 左手からGを外し、右手のG♭―Gを残す。
三つを同時に変更すると、何が効果を生んだのか分からなくなる。ひとつずつ変えれば、ブルーノートスケールの違和感を解決するための自分の基準が作れる。
ブルーノートスケールの違和感を解決するために、別のスケールへ逃げる必要はない。まず、どの音が濁りを作っているかを特定する。次に、その音の度数と解決先を決める。最後に、左手コードとの距離と音価を調整する。
ピアノは、微細な音程変化を持たない。その代わり、前打音、クラッシュ・ノート、半音進行、休符、音域、ヴォイシングを高い精度で制御できる。ブルーノートは、ピアノ上で音程を曲げる技法ではない。固定された♭3度と♭5度を、コードトーンへどう接続するかというボイスリーディングの問題である。
結論は限定的である。Cマイナー・ブルース・スケールの6音を弾けば、C7上で使える素材は得られる。しかし、音楽的に機能させるには、E♭をEへ、G♭をFまたはGへ接続しなければならない。♭7度は和声音として保持できる。♭3度と♭5度は、短い発音、装飾音、または解決を伴う発音として扱う。
基本形を絞るなら、次の通りだ。
- E♭―E:♭3度から3度への半音解決
- F―G♭―G:4度から5度への上行
- G―G♭―F:5度から4度への下行
- E♭とEの短いクラッシュ
- G♭とGの短いクラッシュ
- 左手のGまたはEを省略するルートレス配置
- 左手と右手の音域を分離する配置
ブルーノートの濁りは、排除すべき失敗ではない。未処理の緊張である。度数、音価、解決先、配置を分ければ、濁りは構造として管理できる。 ━
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