
肩甲骨を「広げる」と、腕が軽くなる
ルミ子さんが教えてくれた動作はとてもシンプルです。両手を前に出し肩の高さで組み、手のひらをゆっくり返しながら両手を前につき出す——左右の肩甲骨を広げていくイメージ、と語っています。記事の中で彼女は「ちょっとしたストレッチを毎日続けるだけで、歩くたびに地面をしっかりと受け止める力が湧き、体の安定感が増していきます」と語っており、74歳の今も踊り、歌い、演じ、走り続ける彼女の長年の知恵がにじみます。
ジャズピアノでコード・ヴォイシングを厚く重ねていくと、自然と両肩が前に巻き込まれてしまいがちですよね。私もセッションの休憩中、自分の肩がカチコチに固まっていて、ヘッドに入る直前に冷や汗をかいたことが何度もあります。肩甲骨が広がると、上腕が鍵盤に対してより垂直に自由に動けるようになり、リリースの粒立ちがぐっとクリアになります。指の腹で鍵盤を捉えたときの「沈み込み」が深くなる、あの感覚——あれは肩が開いているときほど起こりやすく、反対に肩が前に潰れていると、どんなに良いタッチで弾いても音が浅く聞こえてしまうのです。
たとえばCmaj7のヴォイシングを両手で押さえながら、肩が前に落ちているか開いているか——一度試してみてください。肩が開いているだけで、フレーズにぐんと奥行きが出ます。アドリブでフレーズが途切れてしまうとお嘆きのあなたも、ぜひ一度肩甲骨を意識してみてはいかがでしょうか。指のトレーニングに行き詰ったとき、案外それが近道だったりします。
30分に一度、自分の体を「聴こう」
ルミ子さんは撮影の合間、時間が空くとすぐに体を動かすタイプだといいます。記事でも触れられている通り、座っている時間が長いと肥満や糖尿病、心臓病、がんのリスクが高まるとの研究報告があります。「30分ごとに少し歩くなど、こまめに体を動かすことが健康につながる」ともある通り、鍵盤の前に座る私たちも同じです。
同じ姿勢で30分弾き続けると、首・肩・背中の血流が滞り、次のフレーズの表現力が鈍ってしまう——これは私も現場で何度も身をもって経験してきました。気づくと首が前のめりになり、再現したいと思っていたあの名演のニュアンスが出せずに終わる、という夜がどれほど多かったことか。ジャズバーをハコ借りしての個人練習で、気づくと2時間ビッタリ椅子に座りっぱなし、という方も多いのではないでしょうか。
30分に一度、ほんの数秒でいいので両手を前で組んで肩甲骨を広げる。これだけでも、ヘッドから再びソロに入る瞬間の息の深さが変わります。呼吸と連動させるのがコツで、息を吐きながら肩を開くイメージを持つと、自然に胸郭も広がっていきます。リリースの瞬間に息を吐く、あの感覚ととても近いんですよね。実はこの「肩甲骨を広げる」と「息を吐く」は、ジャズのウォーキング・ベースを左手が刻む瞬間とも深くつながっています。テンポに体を預けるように肩が開くと、低音がより深く、お腹の底から鳴ってくれるのです。
今夜は、左手のさわりだけ
ルミ子さんも「何もしなければ体はどんどん硬くなってしまう」と認めつつ、「ちょっとしたストレッチを毎日続けるだけで」と、小さな一歩を重ねることの大切さを語っています。彼女が20歳から続けていることからも、習慣にするのに大きな変化は要らないのだと伝わってきます。朝目覚めたら背伸びをして、肩や背中、腕の動きがすんなりといくと「今日も元気ね」と幸せを感じると語るその姿は、演奏前のルーティンとして私たちにもそのまま取り込めるはずです。
74歳になってもステージで踊り、歌い、演じ、走り続けるルミ子さんが、その活動の根っこに置いているのが、この何気ない肩のストレッチなのだと知ったとき——私たちも今日から本気で取り入れたくなりますよね。
ジャズピアノの練習も同じですよね。今日はこの一曲の中の左手のさわり——たった4小節だけ、肩甲骨を開いた状態で弾いてみてください。たったそれだけで、テンポの中で左手が「ついてくる」感覚が少しだけ変わるかもしれません。まずはこの1小節だけでも、十分です。肩が開けば、きっと音も開きます。明日も明後日も、その1小節の積み重ねが、あなたの74歳を支えてくれるはずです。
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