
キューバ出身でラテン・グラミー賞も経験したピアニスト、イバン・メロン・ルイスさんが、9月18日にトルコ・アランヤで開かれる第20回インターナショナル・アランヤ・ジャズ・フェスティバルに出演すると、Hürriyet Daily Newsが伝えています。クラシックの構成力、アフロ・キューバンの打点、そしてジャズの即興性——三つの語法を鍵盤の上で溶け合わせる彼の手元には、私たちがコード練習の中で行き詰まりを感じたときに、ふと覗いてみたくなる景色が広がっています。
「音を届ける前に、自分を整える」
記事によれば、ルイスさんはクラシックの厳格な訓練を経たあと、アフロ・キューバンのリズムとジャズの自由さを自分の語法として根づかせてきたピアニストです。Issac Delgado、Buika、Charles Aznavour、Mariza、Joan Manuel Serrat、José Luis Perales——共演してきたアーティストは、ジャンルも時代も実にさまざま。2021年にはラテン・グラミーを受賞しています。
とくに耳を傾けたいのは、彼が語っている「The music itself, the message it carries and the connection with the audience have always come first」という言葉です。指のトレーニングが積み上がるほど、私たちはつい「正しい音」や「誤らない音」を探してしまいますよね。でもルイスさんの言葉は、その手前に「届けたいもの」があることをとても静かに思い出させてくれます。鍵盤に向かう前に、まず自分の呼吸を一つ整える時間といってもいいかもしれません。Buikaとの共演では、メロディが主旋律を歌い、ピアノとパーカッションがそれを下から支える関係性を学んだと語っていますが、これも「主役を決めるのは技巧ではなくメッセージ」という彼の哲学の表れのように感じられます。
Cuban Swing Expressから学ぶ「越境の楽しみ」
アランヤに持ち込まれるのは、彼が主宰する The Cuban Swing Express というプロジェクトです。キューバの Perez Prado や Benny Moré、Herbie Hancock、Michael Jackson、The Rolling Stones まで——時代も国も異なるレパートリーを、アフロ・キューバンのグルーヴで再構築する試みと紹介されています。その背景には、幼い頃に父親のオーケストラ Conjunto Occidental の演奏を間近で見てきた記憶もあるそうで、アルバムの一部は父親へのオマージュでもあると語っています。
ここで注目したいのは、Lewisさんの「Music never lies」という言葉です。強いメロディとハーモニー、そしてリズムがあれば、書かれた時代が何十年も前であっても、人の胸に届き続けるという信念。古い曲を今の感覚で組み替えることは、過去を置き去りにすることではなく、いまの息を吹き込む作業ですよね。私たちが手元のスタンダード曲を練習するときも、譜面の音符だけを追いかけず、その曲が最も輝いていた時代の空気ごと迎え入れるくらいの想像力があると、普段の左手のアコード Voicing がふっと立体的に聞こえ始める瞬間があります。
今夜、鍵盤で試せる小さな一歩
記事の中では、Lewisさんは以前にも Antalya や Istanbul で演奏しており、トルコの聴衆が多様な音楽的感性を持っていることに信頼を寄せているとも伝えています。地域も文化も異なる聴衆の前で「音楽は嘘をつかない」と信じられること——それは、私たちが人前で練習曲を弾くときや、セッションに飛び込むときに、そっと胸に置いておきたい勇気そのものかもしれません。
最新アルバム「Luces y sombras」では、人が日々感じる光と影の感情を音楽に託したと語っていますが、私たちの練習にも、調子のいい夜と、どうしても手が動かない夜がありますよね。どちらの夜も、まず今日の一小節だけ丁寧に鳴らしてみることから始めてみてください。
たとえば、夜のひととき、いつも右手で弾いているコード進行を、左手で一回落としてみましょう。指が迷っても、それで大丈夫。次に、その左手のアルペジオに、キューバ音楽の clave をイメージして「2」「3」と一拍だけアクセントを足してみます。呼吸は止めず、指の腹で鍵盤を撫でるくらいの柔らかさで。たった一小節、それだけで、今夜あなたのピアノの中に Lewis さんの世界への小さな入口が開きます。